[連載]おばさんになれば"なるほど"

「オーガニック野菜」「感性を磨く」まではいかなくても……ロハスな中年女性の欲求とは

2015/03/20 20:10

 ロハスがブームになったのは、不況の影響があると言われています。「貧乏」を、ロハスという言葉で多少なりとも美化することができたのです。しかし、中年後期世代においては、全然別のきっかけから「意識の転換」が訪れることがあります。それは、年老いた親の家を片付けねばならなくなった時です。

 あんなに物を大切にせよ、贅沢を慎めと説いていた親の家に、いつのまにか溜りに溜った大量の物。戦前、戦中生まれの彼らも「じゃんじゃん買う」ブームには抗せなかったのですね。その上、「もったいない」が染み付いている世代だから、容易に物を捨てられない。溜まる一方。ああ私の家もいずれこうなるのだわ。いやもうなってるか……。

 どこから手をつけていいかわからないほど物にあふれた実家をやっとのことで片付けて、おばさんは決意します。物欲を捨て、煩悩を捨て、身も心もスッキリして老後を迎えるのだと。普通でいったら、まだあと30年くらいはある人生、本当に必要な物だけに囲まれて、ストレスなく健康に暮らしたい。

 一旦そう決めて片付け始めたら、止まりません。ついでにダイエットも始めます。余分な贅肉も断捨離です。無駄なものが少しでも削ぎ落とされていくと、大変気分がいい。新しい物も極力買わず、今までの物でどうやりくりするかを考えます。「地球にやさしく」なんてシャラ臭いことは言いません。自分と自分の半径10メートル以内がスッキリサッパリしていることが重要なのです。

 さて、これはロハスなのでしょうか。ロハス原理主義の人から見たら「意識が低すぎる」かもしれませんが、当人にしてみれば「健康で持続可能なライフスタイル」そのものです。究極的には「自分を愛でたい」点もロハスの人と同じです。無駄が嫌いなおばさんですが、タダで何かが手に入る機会は逃しません。抽選で何かが当たるのも大好きです。スピリチュアルな方向に嵌って迷走するロハスな人より、ささやかな日常の中でロハ(只)を楽しむリアリストといえるかもしれません。

大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻家卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。共著に『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社)『高学歴女子の貧困』(光文社新書)など。
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最終更新:2019/05/21 16:53
『アーティスト症候群---アートと職人、クリエイターと芸能人 (河出文庫)』
地方都市ではロハスも断捨離も同義
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