介護をめぐる家族・人間模様【第45話】

「夫にも義父母にも上から目線」ご近所トラブルの火種をまく母に、娘は……

2014/12/21 15:00

■娘の努力も、お姫様の母にはわからない
 ところがある日、松本さんのもとに1本の電話がかかってきた。

「お隣の奥さんからでした。母が一人暮らしなので、何かあったときのためにと、お隣にはいつも挨拶をして、私の連絡先も伝えていたんです。お隣とはつかず離れずのいい関係だと思っていたんですが、お隣の奥さんが『お宅のお母さんから言いがかりをつけられて困っている』とおっしゃるんです。驚きました。聞いてみると、お隣のご主人が母の洗濯物を凝視しているとか、部屋を覗いているとか、文句をつけているらしい。そういえば、母が『お隣の植木の落ち葉がうちにたくさん入ってくる』と、こぼしていたことはありました。でもそういうのはお互いさまだから、気にしないように言うと、納得していたはずだったんですが」

 母親の気性が身に染みてわかっている松本さんは、お隣との関係が悪化することを恐れた。自分が母親代わりになることで取れている微妙な均衡の生活を、できるだけ維持すること。それが松本さんのミッションとなった。

「とにかく、直接母とお隣がぶつかることだけは避けないといけません。それからは毎週母のご機嫌伺いをして愚痴を聞く。お隣には毎回菓子折りを持って行って、母への苦情は私が聞く。私がクッションになるのがベスト。挨拶を終えて実家に戻ると、母が冷ややかに『あんな家に挨拶なんてしなくていい』と言うんですよ。クッションじゃなくてサンドバッグですね(笑)。私の努力は母にはまったく伝わっていませんが、お姫様ですから仕方ないとあきらめています」

 松本さんが偉いのは、母親にストレス発散の機会をと、定期的に旅行にも連れて行くことだ。夫の両親も連れて行くというから、頭が下がる。「うちのお姫様は、夫にも義父母にも上から目線だから、旅行していても気は安まらないんですけどね」。笑い話にできる松本さんは偉い。そうそう真似できないが。

最終更新:2019/05/21 16:02
『女友だち』
君臨するしか関係を結べない哀しさ
アクセスランキング