[連載]安彦麻理絵&田房永子「オンナの絵日記」

逃げ出したい願望が渦巻く夜、「全てを捨てた!」気分に浸る“ひとり回転寿司”

2014/10/16 21:00

 なんていうかその時だけは、ほんの一瞬だけ「全てを捨てた!!」みたいな気分に浸ってるんだよね。一人暮らしの頃に戻ったみたいな、その頃の有り余る自由を再び手に入れた、みたいな。……でも、家帰ってきて子どもの寝顔なんか見るともうダメ。途端にものすごい罪悪感にかられちゃって、「一体、何やってんだ自分は」って、自己嫌悪のドン底に急降下。恐ろしいくらいの淋しさに襲われるんだよね。「あー、もう、二度とこんな事したくない!!」って、本気で、心底思うようになって、それで最近は、ラーメン屋への家出、やめてたんです。が。

 こないだ、封印してたこの「家出魂」がまたしてもムクムクと……実は、うちの近所に最近「はま寿司」がオープンしたんですわ。家族連れ大歓迎の、デカいテーブルばーん、サイドメニューがんがんの、回転寿司。で、そこ、店の端っこに一列ズラッと、お一人様用のカウンター席があって、なんていうか「気兼ねなく1人で飲み食いできそう」な感じに私、キラーンと目、光らせてたんです。で。

 先日、子どもら寝静まってから夜、夫に「ちょっと!! これから1人で、はま寿司行ってくるから!!」と、有無も言わさず強引に「家出」決行(……って、家出になるんかな、これ)。実は私、1人で居酒屋で飲むっていうのには、ナニゲに抵抗あるから行かないんだけど、でもこれが、回転寿司となると話は別。回転寿司と居酒屋の雰囲気ってやっぱぜんぜん違うわ!! なんていうか「酢メシの香り」に殺菌効果でもあるんだか、居酒屋にありがちな「よどんだ空気感」「テーブルの下で駆け引きされる、腹黒い人間ドラマ」「男と女の欲望とゲロ臭」等が、回転寿司にはまったくない。とにかくもう店の中の雰囲気が、明るくて明るくて。

 そんなわけで、お一人様っつー事でカウンター席に通されて、さっそく目の前のタッチパネルで、瓶ビールとカリカリポテトを注文。寿司屋来て寿司たのまねぇってどーゆーこったって感じだけど、ま、ファミレスみたいなもんですからね。カバンの中から本を取り出し(石井好子の『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』また最近ハマり出した)、読書しながら飲み食いできるって、大型回転寿司ならではかも!? って、ちょっと感動してしまった。にしても、周りを見ると、ナニゲに「女ひとり寿司」の客が多いの。1人で寿司つまむにはこういう、タッチパネル式の店って、なんかめっちゃ気楽っての、よくわかる。

 私も、唐揚げとカキフライとローストビーフ追加注文して(だから寿司は食わねーのかって感じだけど)、目の前に勝手に料理がガ~ッって流れてくんの、なんて楽!! って思った。帰宅後、夫にも「ほんっっと、家出したくなったらマジで回転寿司おススメ!!!」と強力プッシュ。自分がまた今度1人で行きたいがために、「アンタも1人で行っていいから!!」と、こすっからい事をやっとりました。

 それにしても、ほかに何か趣味でもありゃーこんな「逃げ出したい願望」なんてなくなるのかしら? 私、大好きなアイドルもいないし、ほんと夢中になれるものなんて何一つないんだよねぇ。エイコちゃんからすると私の「家出」なんて多分、ハナクソみたいなもんじゃないかって思う。確か、漫画の中で「赤ちゃん連れでビジネスホテルに家出」した事描いてたよね? 私なんて、飛び出したはいいが、結局酒飲んでノコノコ帰ってくるだけという……。こないだも、またまた夜、夫婦喧嘩で外飛び出したんだけど、駅前の本屋で偶然、ずーっと欲しかった本を発見。うれしくなってホクホクしながら、缶ビールも買って、またノコノコ帰ってくるという……そんな事ばっかやってる中年女ってどーなんだろって、マジで思う今日この頃。

<次のページからは田房永子の日記>

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