[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

伊藤比呂美×枝元なほみの「女は発酵モノが好き」で考えた、“女人生”の発酵の仕方

2014/08/10 21:00

 伊藤さんは「麹とか紅茶キノコとか色んなもんを発酵させるのにすごくハマってる」らしい。それで、今まで育てて(発酵させて)きた「うちの子」の話を散々披露した挙げ句に出たトドメのセリフが、「女って、発酵モノ、好きでしょ!!」。会場の女たち、大爆笑。大爆笑するってことは、図星、ってことだ。なんで女は発酵モノが好きなんだろう、あの、独自のニオイを放つ、腐ったような、あんなアレが。「育ててる」カンジが母性本能をくすぐるからか? それともやっぱり、自分もいつも、ヘンなニオイ出してプツプツ発酵してるから、それで好きになっちゃうんだろうか?

 その日のトークショーでの伊藤さんと枝元さんは「すごくいいヌカ床」のようだった。お2人の会話、言葉は、そのヌカ床から次々出てくる、絶妙な漬かり具合のおいしいヌカ漬けのようだった。「発酵」と言えば、昨年よりも急激に発酵が進んでスッパマズくなりつつある私。しかしそんな「ダメ発酵」に、先日、友人の大久保ニュー姐さんからダメ出しが入った。私があまりにも「更年期の入り口、きっとこれはそうだ、更年期、キツいキツい!!」と言ってたら、姐さんが一言。

「女の人ってよく『苦しくないと恋してるって気がしない』って言うけど、それと一緒よ!!マリエ姐さんも『苦しくないと更年期って気がしない』って思い込んでんのよ!!」

 ……まるで、頭をカナヅチでブン殴られたような気分、目から眼球がビョッと飛び出そうになった。そして、あまりにも図星すぎて思わず爆笑してしまった次第である。そう、確かに私は、恋も更年期も苦しいもの、どの女よりも激しく苦しんだ方が勝ち、と、思い込んでいた、というか、思い込みたかった。以前、伊藤さんにお会いした時に「更年期、おもしろいから!! ラクになるから!!」と言われて、「えー!? えー!? うそー!! フツーは苦しくって、この世の地獄みたいって言うじゃーん!!」って思ってたのだが。結局は自分でそう思いたかっただけなんですね。世間の刷り込みに振り回されてたというか。それで「キツいよね~、そーだよね~」なんて、女同士で語り合って、一番キツい思いしてる人が勝ち、みたいな、そういう優越感に浸りたかっただけ、みたいな。今回の一件で、どうしようもない状態だった私の脳みそ→ヌカ床を、ニュー姐さんに思いっきり、グワシグワシとかき混ぜられたような気分になりました。そして「女の更年期、とにかく面白がってみようじゃないのさ!!」って思いました。やっぱり、いい具合に発酵したかったら、「良き発酵友達」は欠かせないんだな、と、痛感。

 枝元さんと伊藤さんのトークショーの帰り道、N江がおもむろに「あーっ、アタシ、早く60代になりたいですよっっっっ!!!」と、ぶっ放した(ちなみに枝元さんと伊藤さんはまだ50代)。

「……アンタの言いたいこと、わからないでもないけど、でもまだ30代前半でそれ言う?」

 N江はババア好きである。こじゃれた素敵ババアだけでなく、オバタリアンでも「可」だそうである。ババアたちに共通する「底抜け」な感じが好きらしい。更年期通過して閉経もしてる、ダンナとも死に別れた、でもなんだか底抜けに陽気なババアたち。自分のおばあちゃんと飲むのが好きらしいし、居酒屋で仲良くなるのもババアの客ばかり……って、どんだけババ専だよと思うのだが、「年齢を経て、いい具合に枯れ上がった女」っていうのは私もあこがれる。

 だってそういうババアって、なんだかもう、色んなことがめんどくさくなさそうなんだもの。うらやましいなぁってすごく思う。でもまぁね、N江、と私は思う。なりたくても、一足飛びにはなれないし。いろーんなことで振り回されてジタバタして、グチャグチャになって立ち上がって、そしてキレイに枯れ上がりましょう。その夜、N江と飲んでる所へ、サイ女編集部のJ子も合流。J子曰く

「うちの母親、50過ぎてんのに、まだ『自分に自信が持てない……』とか言うんですよ!! アタシ、50過ぎてまでそんなこと言ってる女になりたくない!!」

 ……言われてみればそうである。10代や20代の女ならまだしも、50過ぎてもまだそのセリフ。例えば70過ぎたババアが「アタシ、自分に自信が持てなくって……」なんて、うつむきながら言ってたら、ものすごく妙な違和感を感じる。もしどうしても言いたかったら「あたしゃこんなトシなのに、まーだ自分に自信持てなくてね(笑)!!」ぐらいの、底抜け感全開で言ってもらわないと、言われた方が困るってもんだ。「女の発酵」が、うまい具合にいかなかった場合に、こういうセリフがいいトシこいても飛び出してしまうのだろうか、と、思った次第である。

最終更新:2019/05/21 16:23
『なにたべた?―伊藤比呂美 枝元なほみ往復書簡 (中公文庫)』
女友達との会話の快楽たるや!
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