イケメンドラマ特捜部【ジャニーズ&イケメン俳優】

『プラトニック』で身を削るような演技で存在感を放った、俳優・堂本剛に寄せる期待

2014/07/22 18:30
puratonikku-nhk.jpg
『プラトニック』(NHK BSプレミアム)公式サイトより

 「NHK BSプレミアム」枠で放送されていた『プラトニック』が完結した。脚本・野島伸司、出演・中山美穂、KinKi Kids・堂本剛、吉田栄作と書くと「90年代のドラマかよ」と、思ってしまうが、れっきとした2014年のドラマである。物語は心臓病の娘を抱えるシングルマザーの望月沙良(中山美穂)が、自殺志願者が集まるネットの掲示板に「どうせ、死ぬなら、娘に心臓をください」と書き込むところから始まる。ほとんどのコメントが罵詈雑言の中、沙良は「僕のハートを差し上げます」というコメントを見つける。心臓病のドナーとなるという意味と、心を全て捧げるという愛の告白のダブル・ミーニングとなっている実に気の利いた言葉だ。

 沙良は書き込みをした青年(堂本剛)と面談する。青年は脳に腫瘍ができていて余命わずかだった。はじめは青年を疑っていた沙良だったが、やがて信用するようになる。そして、第三者からの直接の心臓提供は、臓器売買となり禁止されているため、2人は偽装結婚をすることとなる。

 本作は『高校教師』(TBS系)などのヒット・ドラマを手がけてきた脚本家・野島伸司が初めてNHKで執筆した作品である。しかも放送されたのは「NHK BSプレミアム」という衛星放送だ。野島の作風は、次から次にショッキングな出来事を見せていくケレン味と独自の作家性の両輪で展開されてきたが、衛星放送のため視聴率という枷から自由になったことで、ケレン味が抑制され、代わりに「無償の愛はありえるか」というテーマが深く追求されており、過去作の『この世の果て』(フジテレビ系)を彷彿とさせる純度の高い作品となっている。

 とはいえ、本作の面白さの多くはキャスティングによるところが大きいのではないかと思う。中でも『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(TBS系)以来、20年ぶりに野島ドラマに出演した堂本の存在感が印象的だった。

■ジャニーズドラマでも意味深い堂本剛のポジション

 近年ではジャニーズ事務所のアイドルがドラマに出演することは珍しくないことだが、ジャニーズアイドル主演のドラマが急増したのは90年代後半以降で、その先駆けとなったのがSMAP・木村拓哉と堂本だった。特に堂本の存在は重要で、木村がすでに存在した月9の恋愛ドラマに進出していったのに対し、堂本は『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)に出演することで、日本テレビの土曜ドラマ枠を、ジャニーズアイドル枠としてゼロから開拓していった。現在、『金田一~』は、Hey!Say!JUMP・山田涼介主演で再びドラマ化されているが、今の土曜ドラマの流れは堂本から生まれたのだ。

 やがて、2000年代に入ると堂本は、就職氷河期の最中で将来について悩む大学生を演じた『夢のカリフォルニア』や、海外でのバス転落事故で婚約者を亡くした青年が、同じ事故で肉親を亡くした人たちと擬似家族を形成する『ホームドラマ!』(ともにTBS系)といった岡田惠和脚本のドラマに出演し、身を削るようなナイーブな演技を披露して、役者として高い評価を受けた。しかし、見ている側も痛々しくなるような演技は、やはり心身ともに疲弊する苦しさがあったのだろう。その後、堂本の持つナイーブな自意識はミュージシャンとしての活動に向けられ、役者としては福田雄一監督の『33分探偵』(フジテレビ系)や『天魔さんがゆく』(TBS系)といったコメディドラマに出演するのみで、シリアスな演技は封印されていた。それだけに、今回のシリアスドラマ復帰、しかも脚本が野島伸司という組み合わせは、とても驚かされた。

 堂本が演じる青年は、本名が明かされない。そのため序盤は、人間離れした存在として描かれるのだが、トークバラエティにおける堂本の人を食ったようなぼんやりしたしゃべり方が効いている。とても穏やかで優しいのだが、自分のことを「私は~」としゃべるために、心を読み取ることができない無機質さが存在し、それが天使のような浮遊感を生み出している。しかし、終盤に近づくごとに偽装結婚した沙良に対して恋心を抱くようになり、やがて天使から生身の人間へと変わっていく。

  沙良と共に元・婚約者へ会いに行った青年は、彼女が自分の病気を知った上で別れて、別の男と結婚したという真実を知り、「きれいな思い出なんて1つもない。全部、俺の幻想だ。それをわからせて満足か」と沙良に怒りをぶつける。ここで「私」から「俺」に人称が変わる瞬間の、堂本の口調や表情は実に生き生きとしており、かつて青臭い青年を演じていた頃の姿を彷彿とさせる。

 対する沙良もまた、娘を守るために女としての自分を封印し、完璧な母として生きてきたのだが、やがて青年を女として愛し始めることで気持ちが変化していく。つまり、天使と聖母が、お互いに愛し合うことで人間になっていくドラマなのだ。今作の成功で、おそらく中山は今後、女優として本格復帰していくのだろう。しかし、堂本はどうなるのだろうか。時々でいいので、できればシリアスなドラマでの演技も見たいものだが。
(成馬零壱)

最終更新:2014/07/22 20:37
『ココロのはなし (単行本)』
野島っち、剛主演でもう1本たのむわ!
アクセスランキング