深澤真紀の「うまないうーまん」第17回

「未婚女性も父子家庭も、差別される理由はない」という当たり前の概念が通用しない社会

2014/07/22 22:00

 塩村議員への「自分が早く結婚したらいいじゃないか」というヤジを発言したのは、5日間ものあいだ否定し続けていた自民党の鈴木章浩議員であったが、発言を認め謝罪した。しかしその謝罪で、鈴木議員は「少子化、晩婚化の中で、早く結婚をしていただきたいという思いがあった」と言ってしまった。「結婚しろ」だろうが「結婚してほしい」だろうが、地方自治法で「してはならない」と明文化されている「私生活にわたる言論」なのである。それは誰が誰に対しても「公の場」で、発言すべきではないのだ。

 そして、日本で結婚が減り、子どもを産む人が減っていることは、そもそも女性だけの問題ではない。男性がいなければ、どうにもならないのである。塩村議員へのヤジは、女性だけに結婚や出産という問題を押しつけようという考えが透けて見える。

 その一方では、安倍政権は「女性活用」とぶちあげるものの(「女性を社会に活用」したいなら、「男性を家庭に活用」しなければ無理だろう)、「SHINE!~すべての女性が、輝く日本へ」とむやみにおだててみたり(仕事も家事も育児も介護もやって、輝いてなんていられない)、「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」を立ち上げてみたり(リーダーの会だけか、男性の会だけでよかっただろう)、なんだか根本的にずれているのである。
 
 そして、この旭川の木下市議のように、あまり語られない「シングルファザー」「父子家庭」の問題もある。日本では、夫婦が離婚すると、どちらかが単独親権を取るのだが、最近では「子どもには母親のほうがが大事」という風潮が強く、母親が親権を取るケースが8割ほどだと言われる(ちなみに1970年代までは「家意識」が強いために「子どもは家のもの」という考えで、父親が親権を取るケースが多かった)。

 ちなみに最近話題になっている、小説家の辻仁成と女優の中山美穂の離婚でも、辻が息子を引き取ったとブログに書いたため(親権がどちらなのかは不明)、「なぜ母親が引き取らなかったのか」という非難の声も上がった。しかし10歳の男の子なら、自分の意思で父親と暮らすほうを選ぶこともあるだろう。それだけで中山が母親失格ではないだろうし、辻だって父親として子どもと暮らすことはできるはずであり、実は母親へも父親へも差別的な考え方なのである。

 さて、日本の「父子家庭」の現状である。

 「母子家庭」は124万世帯ほどと推計されているが、「父子家庭」は22万世帯で少数派である。これまでは「母子家庭」にしか支払われなかった「児童扶養手当」の対象ともなり、またこれまで夫が亡くなった場合にしか支払われなかった「遺族基礎年金」も妻が亡くなった場合にも支払われるようになるなど、少しずつ状況は改善されている。父親であれ、母親であれ、一人親として子どもを育てる人へのこのような支援は重要であろう。日本でも、やっと関心が持たれ始めているのである。

 とはいえ都議会や旭川市議会などという、「公の場」で個人的な結婚や出産についての差別的なヤジが飛んでしまうということは、ほんとうに時代錯誤なことである。

 まずは「誰であっても、結婚するのも子どもを産むのも自由であること」という大前提があってこそはじめて、結婚したい人、子どもを産みたい人、一人親やいろいろな状況で子どもを育てたい人など、さまざまな生き方を選ぶことができるし、そういった支援を考えることができるのである。

深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・淑徳大学客員教授。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の水曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

最終更新:2019/05/17 20:07
(010)格付けしあう女たち (ポプラ新書)
他人を見下し、自分の幸せを確認するなんて不幸な人生よ!
アクセスランキング