[連載]悪女の履歴書

三角関係で同僚女性を殺害――冤罪疑惑の「恵庭OL殺人事件」、警察情報の嘘と矛盾

2014/05/31 19:00

■「アリバイがないのは」4人いた

 しかし、ここからがミステリーである。逮捕された大迫は取り調べでも一貫して無実を主張、さらに伊東秀子という有名弁護士を筆頭とした弁護団の奔走により、警察が逮捕の理由とした数々の状況証拠のウソが暴露されていくのだ。それは警察のずさんな見込み捜査の実態であり、卑劣な証拠隠蔽の数々だった。

 具体的に列挙すれば、それは枚挙にいとまがないほどだ。

 まずはアリバイ。警察は当初、目撃証言などから遺体に火をつけたのが犯行当日の「午後11時15分頃」だとしたが、それから15分後の11時30分に大迫がガソリンスタンドに立ち寄ったことが判明する。現場からスタンドまでは15分では到着不可能で、大迫にはアリバイが成立する。これを知った当局は、後に犯行時間を「11時15分頃」から「11時頃」と変更してしまう。だがしかし、これは遺体発見現場で「火を見た」という目撃者が証言する時刻とも矛盾するものだった。

 また警察は当初から会社内部の犯行として捜査を行い、「アリバイがないのは大迫だけ」との理由で大迫を逮捕したがこれもウソだった。実際には4人の男性従業員にアリバイがないばかりか、その中の1人は事件前後怪しい行動を取るなど“怪しい”人物さえ存在していたのだ。

 この男性は、遺体が発見前の時刻に「ラジオで事件を知った」と言ったり、その後も事件のことを盛んに聞いて回っていた。また事件後、大迫の自宅周辺をうろつき、女子ロッカーにも出入りしたことがあったという。そして事件当時、「妻と自宅で食事をした」という証言も、後に嘘だったことが明らかになる。にもかかわらず、警察はなぜかこの男性を深く追求することはなかった。

 それだけでない。怪しい男性や他3人以外にも、親族のアリバイ証言しかない従業員が過半数も存在していた。しかし、警察はそれをキチンと確認した形跡さえなかったという。

 遺体の陰部が激しく燃やされていたこと、足が開いていた状況から性犯罪が疑われる事案だったが、性犯罪を念頭においた解剖もしていなかったことも明らかになる。そのため弁護団は「社内の複数男性による性的暴行の末の殺人」という説を唱えたほどだ。

 数々の状況証拠の穴――。さらに物証に関しても何ひとつ大迫と結びつけるものはなかった。

 坂本さんが殺されたとされた大迫の車内には、坂本さんの毛根、衣類、絞殺した際に現場に残るであろう体液などは一切なく、殺害はおろか被害者が車に搭乗した形跡さえない。また遺体の周囲には車のタイヤ痕や足跡が残されていたが、大迫のそれとは一致していない。また大迫の車中から検出された灯油と現場の灯油が一致するかも不明であり、ロッカーで見つかった坂本さんの携帯電話にも大迫の指紋が検出されることはなかった。

 大迫は身長147cm体重47㎏と小柄で運動とは無縁。それどころか、両手小指と薬指が生まれつき極端に短く、握力も弱かった。一方、坂本さんは身長165cmで60㎏。筋肉質で体格もよく、学生時代には陸上部に所属していた。検察が主張するように、車の中で後部座席にいた大迫が前の席の坂本さんをタオル布で絞殺することは体格差からも不可能だとの検証もなされた。またこれだけ体格差があるにもかかわらず、大迫の体には抵抗された傷なども一切なかった。

『恵庭OL殺人事件: こうして「犯人」は作られた』
このまま真相は埋もれてしまうのか
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