深澤真紀の「うまないうーまん」第15回

生殖と関係なくなったとしても女は女。他人に決められるいわれはない

2014/05/23 13:00

 働き出してしばらくすると、大きな子宮筋腫も発見された。13個もあって、骨盤より張り出るほど大きく、おなかが変形しているので妊娠していると思われるほどだ。しかもPMS(月経前症候群)や生理痛はますますひどくなり、信じられないくらい大量な出血もあり、さらに便秘や頻尿や腰痛もひどい(便秘と頻尿という組み合わせも最悪である)。今度こそ子宮も一緒に取っちゃうかと思ったが、負担の少ない腹腔鏡手術などでは子宮を取りきれず、負担の大きい開腹手術しか適用できないという。独立して自分の会社を持っていた私には、長期間の休みを取ることはとても難しく、またこの頃には、生理用品や鎮痛剤の進化などもあり、「更年期で閉経するまでしのぐ」という選択をしたのである。となるとますます、更年期が楽しみになった。なぜなら子宮筋腫は閉経後は小さくなり、扱いやすくなるからなのだ。

 私は子宮筋腫の検査のため、毎年婦人科に通っている。この時に子宮体がんと頸がんの検査もするのだが、女性は若い時からこの検査を絶対にした方がいい。私も40歳の時に、頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染が発見された。私は運良く自然消滅したのだが、早期発見すれば治ることが多いからだ。婦人科が苦手な人が多いのはわかるのだが、ぜひ通ってほしい。

 ちなみに私は診察台をカーテンで隠される方がいやなので、「開けてください」という。若い時に開脚して診察台に上がるとカーテンの向こうがざわざわしていておかしいと思ったら、私に一言もなく、数人のインターン学生たちが私の膣内をのぞくという実習をしていたのだ。カーテンがあるからなにをしてもいいと思ったのだろうが、以降カーテンを開けてもらうようにした。その方がよほど人間らしく扱ってもらえるわけである。あのカーテンがあるのは日本や韓国や台湾などだけらしい。女性の羞恥心に配慮しているようで、逆効果なだけだと思う。

 さてがん検査以外には、血液検査もする。ここで女性ホルモンの数値がわかるので、更年期かどうかわかる。残念ながら私はまだまだ数値的には更年期ではなく、いまだに生理と付き合っているわけで、毎月生理が来ると本当にがっかりしてしまう。

 生理以外では、40代になるとさまざまな更年期的な症状と付き合うことになった。つらかったのは「四十肩」だ。次にきたのが「老眼」である。ただ、四十肩にしても老眼にしても不便は不便なのだが、自分の体が制御できなくなるのはなんだか面白い部分もある。そんなわけで、40代以上の女性とは、中高年・更年期トークをしたいのだが、「そんなこと言っちゃダメ! 本当に老けちゃうわよ」と怒られてしまい、なかなかできないのである。

 でも閉経や更年期でも、病気などによって子宮がなくても卵巣がなくても、「女でなくなる」わけでははない。石原慎太郎が都知事だった2001年に「週刊女性」(主婦と生活社)でこんな発言をして問題になったことがある(石原慎太郎得意の炎上商法であるが……)。

 「松井孝典がいってるんだけど、“文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものは「ババア」”なんだそうだ。“女性が生殖能力を失っても生きているってのは無駄で罪です”って」

 惑星科学者の松井孝典の理論は、実際には「ヒトの女性が生物としては例外的に生殖可能年齢を超えて生存することで『おばあさん』が集団の記憶装置としての役割を果たし、そのことで文明の誕生が可能になった」というもので、全くの誤読である。石原は芥川賞作家でありながら読解力がないのである。

 しかしこの「ババア発言」後も石原を支持する女性は多かった。こういう発言は、男性以上に女性の方が納得させられてしまうのである。多くの女性は男性に馬鹿にされ洗脳されることに慣らされてしまっているからだ(例えば作家の伊集院静のベストセラー『大人の流儀』(講談社)シリーズも、「女子供は男より馬鹿である」と何度も書いてあるのに、多くの女性読者を獲得している。いい加減これにも怒ろうよ)。

 しかし生殖と関係なくなったって女は女である。それ以上でもそれ以下でもない。まして男にそれを決められるいわれはない。少なくとも私の場合は、47歳の今の方が20代や30代の頃よりよほど人生が気楽になってきたし、更年期も50代や60代もわりと面白そうだなと思っているのである。

深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・淑徳大学客員教授。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の水曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。

最終更新:2019/05/17 20:07
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