ドラマレビュー第36回『天誅 闇の仕置人』

シリアスなトーンと泉ピン子の『渡鬼』感が同居する、『天誅 闇の仕置人』の殺伐感

2014/03/24 21:00
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『天誅 闇の仕置人』(フジテレビ系)公式サイトより

 どう評価していいのか戸惑う、圧倒的に変な作品だった。それがフジテレビの金曜午後8時に放送されていた『天誅 闇の仕置人』に対する一貫した印象だ。

 時は戦国時代。女忍者のサナ(小野ゆり子)は、任務の最中、大爆発に巻き込まれる。気がつくとそこは現代。気を失って倒れていたところを村田正子(泉ピン子)に助けられる。事態を飲み込めないサナは、現代での暮らしに戸惑うものの、正子の温情に触れて主従関係を交わし、一緒に暮らすようになる。そしてサナは困っている人たちを助けるため、正子の命を受けて悪党たちに戦いを挑むことになる。

 やがて、サナと正子の元には、古武術道場の館長・松田竜次(京本政樹)、あらゆる鍵を自在に開ける元・空き巣の八巻辰(柳沢慎吾)、スナック「天守閣」のおネエ系ママで、変装による情報収集と得意とする東条ミツ子(三ツ矢雄二)といった仲間たちが次々と加わり正子を中心とした秘密結社のようになっていく。

 悪党たちにサナたちが天誅を下すという物語構造は、さながら『必殺仕事人』(テレビ朝日系)の現代版という印象だ。作中で裁かれる悪はDV(ドメスティックバイオレンス)、オレオレ詐欺、援助交際、ママ友イジメ、ブランド品詐欺といった、被害者にとってはもちろんつらいものだが、客観的にみると小粒な犯罪ばかりで、良く言えば地に足が着いている、悪く言えばショボイ敵ばかりという世界観になっている。しかし、そういった犯罪の小粒さに較べると悪党の描写がやたらとエキセントリックで、漫画『闇金ウシジマくん』(小学館)にも通じるような鬼畜性が前面に打ち出されている。

 悪役の描写を筆頭に、色々と引っかかるところが多い作品だが、一番気になるのが、登場するだけで作品を支配してしまう泉ピン子の圧倒的な存在感だ。『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)を筆頭とする、橋田壽賀子作品の常連である彼女が画面に登場すると、どんなドラマでも橋田壽賀子的なホームドラマの世界観に染まってしまう。本作はそんなピン子の存在感を逆手にとって、「もしも『渡鬼』的な世界でDVやオレオレ詐欺といった犯罪が発生し、そこに戦国時代から女忍者がタイムスリップしてきて仕置人のようなことをしたら……」という、本来なら混ぜてはいけない別々の素材を、ピン子や京本政樹といった出演俳優のバックボーンをうまく利用することで、無理やりまな板の上に載せてしまったのだ。

 もちろん、こういった役者(芸能人)のバックボーンを利用した多層的な世界観の構築は、今のドラマでは珍しくない手法だ。例えば、『明日、ママがいない』(日本テレビ系)は安達祐実を配役して、芦田愛菜と共演させることで、ドラマのストーリーを超えた、新旧・子役対決という文脈を作品に持ち込んでいた。しかし、これは危険な見せ方だ。安達と芦田は子役という文脈でつながっているが、本作における小野演じる戦国時代から来た忍者が、孤独感に苛まれるシリアスな演技と、泉ピン子、京本政樹、柳沢慎吾、三ツ矢雄二といった各役者のコミカルな演技は本来、まったく相いれない別世界のものである。

 演技におけるリアリティの水準が違う役者同士の共演は、ドラマにとっては危険なことで、ともすれば作品そのものの世界観が崩壊してしまう。それだけに演技の水準の違う役者の共演は、普通は避けるものなのだが、『天誅』では、それが真正面から行われ、少なくとも外見上は現代版『必殺仕事人』というドラマとして成立している。

 そんな力業が成立したのは、チーフ演出の西浦正記の演出力によるところが大きいだろう。西浦は、『コード・ブルー』や『リッチマン、プアウーマン』(ともにフジテレビ系)を担当しており、海外ドラマを翻訳したようなリアル志向の演出で高い評価を受けている演出家だ。その一方で、実写版『サザエさん』や『ハクション大魔王』(同)といった漫画やアニメを原作とする実写ドラマ(キャラクタードラマ)も手がけており、正反対の資質のテレビドラマをずっと作り続けている。

 女忍者が登場する『天誅』は、本来ならキャラクタードラマの文脈にある作品で、違う演出家が担当していたなら『忍者ハットリくん』のような漫画的な作品になっていたのかもしれない。しかし、荒唐無稽な世界観を支える演出の説得力があまりにリアル志向で高いため、妙にハードコアで殺伐とした作品に仕上がってしまった。

 これが狙ったものなら、斬新な表現を生み出した画期的な作品だと素直に称賛できるのだが、ピン子や柳沢が出演するファミリー向けのドラマにそれをやる必要はあったのか? という違和感が、最初から最後までぬぐいきれなかった。もしかしたら、『天誅』での試みは後々、新しい傑作を生み出す布石となるかもしれない。だが、現時点では「圧倒的に変な作品だった」という評価しかできないのが実に歯がゆいところだ。
(成馬零一)

最終更新:2014/03/24 21:19
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