ドラマレビュー第32回『僕のいた時間』

『僕のいた時間』に響く、日常の中で絶望を隠すように微笑む三浦春馬の切なさ

2014/02/08 19:00
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『僕のいた時間』(フジテレビ系)公式サイトより

 フジテレビで水曜22時に放送されている『僕のいた時間』は、見る度に胸が苦しくなる作品だ。良くも悪くも話題性においては、裏で放送されている『明日、ママがいない』(日本テレビ系)に押され気味だが、丁寧な作りの青春群像劇となっており、出ている役者が魅力的に撮られている。

 主人公は三浦春馬が演じる澤田拓人。父は病院を経営しており、高校までは跡を継ぐために医者を目指していたが、学力が足りずに挫折。両親は弟の陸人(野村周平)に病院を継がせようと考えているため、家族との間には深い溝があり、いつも明るく振舞ってはいるが、表には出せない疎外感を抱えている。物語は大学生の拓人たちの日常を追いかけるところから始まり、第1話の企業面接を拓人が受ける場面では、今の大学生たちが置かれている就職活動の過酷さを、少しだけ突き放した距離感で見せている。

 拓人は企業面接の時に知り合った本郷恵(多部未華子)と大学で再会し、お互いの親友の水島守(風間俊介)と村山陽菜(山本美月)の4人でつるむようになる。その後、拓人は家具販売会社に就職が決まり、恵と付き合うようになる。しかし、社会人として新たな日々を送ろうとしていた矢先、ALS(筋萎縮性側索硬化症)が発病し、左手に力が入らなくなる。ALSとは、脳や末梢神経からの命令を伝える運動神経細胞が侵されていく病気で、それにより筋肉が萎縮して筋力が低下し、全身が麻痺状態となっていくという、治療法が確立されていない病だ。拓人は病気と向き合うことができず不安になる。その一方で、恵たちには心配をかけまいと平静を装っていたが、やがて左足にも力が入らなくなっていく。

 本作はいわゆる難病モノというジャンルに属するドラマだ。脚本の橋部敦子は、SMAP・草なぎ剛が演じる余命一年を宣告された教師が、残された時間を教師として精一杯生きようとする姿を描いた『僕の生きる道』以降、草なぎを主演とした『僕と彼女と彼女の生きる道』『僕の歩く道』(いずれもフジテレビ系)といった「僕シリーズ」3部作を執筆している。いわゆる難病モノは『僕の生きる道』のみだが、どの作品も淡々とした芝居の積み重ねによって視聴者をじわじわと感動させる作品として高い評価を得ており、本作のトーンも、このシリーズの流れを組んでいる。

 この『僕のいた時間』の物語の核にあるのは、ALSという難病ではなく、拓人と彼をとりまく人々の関係だ。だからこそ、そんな拓人の日常がALSによって大きく変化していく「痛み」が響く作りとなっている。そして作中で印象的なのは、拓人のほほえんでいる表情だ。

 第1話の就職面接の場面で、拓人は面接官に志望動機を聞かれ、今までの自分は周囲の人間に受け入れられるキャラクターを演じていた、と自分の気持ちを正直にさらけだし、その言葉が受け入れられて家具販売会社に就職する。これからは、本当の自分を表に出して、恵とも真面目に付き合っていこうと考えていた拓人だが、今度は病気を隠すために、少しいい加減だけど明るい青年というキャラクターを演じることになってしまう。絶望的な心境を覆い隠すように微笑む三浦春馬の表情をカメラは丁寧に拾っており、その時の拓人が何を考えているのか、視聴者が想像できるように投げてくる。

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