ドラマレビュー第31回『失恋ショコラティエ』

『失恋ショコラティエ』、原作以上に描かれる爽太の自己完結ワールドの行方

2014/02/01 16:00
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『失恋ショコラティエ』公式サイトより

 フジテレビの月曜午後9時(月9)と言えば『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』といった恋愛ドラマのイメージが強い枠だが、近年では恋愛ドラマのヒット作は少なく試行錯誤が続いている。脚本家・安達奈緒子が担当した、IT業界を舞台にした『リッチマン、プアウーマン』は、久しぶりに登場した月9らしい華やかな恋愛ドラマとして高い評価を獲得した。そして、再び安達が月9で執筆した恋愛ドラマが、水城せとなの漫画を原作とする『失恋ショコラティエ』だ。

 本作はチョコレート専門店「ショコラ・ヴィ」のオーナー・小動爽太(嵐・松本潤)の片思いを描いたドラマ。爽太は、高校時代からのあこがれの人で、今は人妻の高橋紗絵子(石原さとみ)に恋心を抱いている。紗絵子は高校時代からモテモテで、学校中のイケメンと付き合ってきたという高値の花。爽太は紗絵子と2カ月だけ付き合っていたが、二股をかけられてあっさり失恋する(紗絵子の中では付き合っていることにカウントされていなかった)。その傷心からヤケになってフランスに向かい、老舗チョコレート専門店「ラトゥリエ・ド・ボネール」に押しかけて働いたことから人生が大きく変化。日本に帰国して一流ショコラティエ(チョコレート職人)として店を持つまでに成長する。

 やがて、チョコレート好きのサエコは「ショコラ・ヴィ」に通うようになり、2人は再会する。紗絵子を振り向かせようとするために余裕のある大人のふりをしながらも、青臭さを隠しきれない爽太の姿が、ロマンチックかつユーモラスに描かれる。紗絵子の振る舞いに翻弄される爽太の姿は滑稽で、同僚の井上薫子(水川あさみ)も初めは呆れていた。

しかし爽太は、紗絵子を自分の店のターゲット層代表だと考えており、彼女のチョコレートに対する反応や、彼女との恋愛の葛藤を仕事に生かすことでショコラティエとして成長していく。本作が恋愛ドラマとしてユニークなのは、恋愛そのものを描く以上に、片思いも含めた「恋愛」が人生に何をもたらすのかを、爽太の成長物語として丁寧に描いて見せているところだろう。

 爽太は紗絵子と付き合えない欠落感に苛まれ、日々悶々としている。しかし、一途に紗絵子だけを思い続けるのではなく、加藤えれな(水原希子)というお互いの恋を応援し合うセックスフレンドもいて、客観的に見れば恋に仕事に充実しているように見える。自分では不幸な男だと思い込んでいるのに客観的にはリア充という、爽太の内面と現実に対する意識のズレを見ていると「何なんだコイツは?」とツッコミたくなるが、実はこれこそが本作の面白さだ。

 原作漫画でも、爽太の心の声はモノローグで饒舌に語られ、妄想シーンも登場する。しかし、それは少女漫画においてはごくごく普通の手法であり、作品が見せたいのは爽太とサエコを中心とした登場人物の恋愛模様だ。

 対してドラマでは、心の流れを追うことで物語を進めていく少女漫画の特色が原作以上に強調されており、爽太の主観から見たフィルターのかかった物語として展開されている。爽太のナレーションは、壮大な独り言を聞かされているようであり、妄想の場面で登場する紗絵子も、現実の紗絵子と大差ない質感で描写されているため、時にどちらが現実かわからなくなることも多い。もしかしたら、紗絵子は爽太の頭の中にしかいない妄想の女なのではないかと勘違いしそうだ。
 
 これは、チーフ演出の松山博昭の特色が強く出た結果だと言えよう。松山は『LIAR GAME』や『鍵のかかった部屋』(ともにフジテレビ系)など、頭脳ゲームやミステリーといった心理描写がふんだんに盛り込まれたドラマで知られる演出家だが、彼の特徴はEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)調の劇伴に乗せたリズミカルな演出だ。音楽に乗せて、じわじわと爽太の感情を高揚させたかと思うと、突然、音が途切れて暗転したり、曲が盛り上がるように見せかけてあえて盛り上げないといった小技で視聴者を翻弄する。まるでVJ(ビデオジョッキー)のように映像と音楽を駆使して、妄想も含めた爽太の感情の起伏を描いていくのだ。

 その結果、爽太の一人称が強調され、漫画以上に爽太の持つナルシスティックな自己完結性が際立っている。このあたりが今後、どう変化していくのか。3話までの物語は、1話に対し、ほぼ単行本1冊分が費やされている。しかし漫画版が刊行されているのは7巻までのため、終盤はドラマオリジナルの展開になるかと思う。

『リッチマン、プアウーマン』を筆頭に、安達奈緒子は鈍感な好青年の放つ無神経な振る舞いに周囲が翻弄されるというドラマを繰り返し描いてきた。今回は、無神経な振る舞いで周囲を翻弄するのはサエコという女性になるのかと思われたが、どうやらそう見せかけて、実は爽太こそが、紗絵子や薫子といった周囲の人々を無自覚に翻弄していたという展開になりそうだ。
(成馬零一)

最終更新:2014/02/01 16:00
『Bittersweet(通常盤)(CD)』
セフレと恋を応援しあうって東京っぽい!(のか?)
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