『官能教育』著者インタビュー

「家庭を壊さずに不倫できる社会に変わっていく」、植島啓司氏が語る愛の変遷

2014/01/29 11:45
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「人を好きになる才能が人生で一番大切」と語る植島啓司氏

 昨年、世間に大きな衝撃を与えた元モーニング娘。矢口真里の不倫騒動。夫不在時に浮気相手との逢瀬を楽しんでいたことが明らかになり、謹慎生活に入った彼女は、半年以上たった今でも活動再開の見通しが立っていない。その背景に、世間からのバッシングがあることは想像に難くないが、日本人はなぜここまで性に潔癖になってきたのだろうか。

 新刊『官能教育 私たちは愛とセックスをいかに教えられてきたか』(幻冬舎新書)で、配偶者・パートナーを含む複数の恋愛関係の必要性を説き、一夫一婦制に懐疑的な態度を示している宗教文化人類学者の植島啓司氏に、現代日本の恋愛土壌やセックス論、愛の形の変遷を聞いた。

――今の日本の恋愛事情には、「草食男子」「肉食女子」をはじめ、いろんなキーワードが出てきていますが、土壌としては豊かなのでしょうか。

植島啓司氏(以下、植島) 男女が同じような立場になってモノを考えられるようになったという点では、豊かになったと思います。しかし、恋愛の土壌は経済的・社会的な豊かさに影響されるので、そういう意味では今はあまり豊かではないかもしれないですね。バブルが始まった80年代は豊かでした、お金は最高の媚薬とも言いますしね(笑)。

――恋愛への姿勢における、男女の違いは感じますか?

植島 男性は、臆病になっているでしょうね。男女が同じように収入を得て、物事を考えられるようになると、男性は周回遅れのランナーみたいなもので、頭がついていかないところがある。女性はどんどんに積極的になって「本当にこれでいいのか?」と不安になっていると思うんですけど、男性はもっと即物的な変化についていけない。現実に起こっていることに対応できないのですから。

――植島さんは常々フラート(視線のやりとりやちょっとした接触、恋の前段階の戯れ)や、恋愛の細かな段階を楽しむべきとおっしゃっています。しかし『官能教育』には、男性にフラート体験のアンケートを取ったところ、武勇伝の披露になったと書かれていましたね。

植島 日本男性は恋愛の過程を楽しむというより、恋愛はセックスへの通過点といった感じなんでしょうね。本の中の表(「世界各国のセックス頻度と性生活満足度」)にもあったんだけど、日本人男性は世界で一番「愛の下手」な国民ですから。おそらくスキンシップの習慣がないというのも背景にあると思います。

――以前、女性だけで「なぜ日本ではフラートが根付かないのか」という話をしたら、「日本の男性はセックスを途中でやめられないから」という結論になりました。「射精するまでがセックスで、絶対にセックスを成し遂げなきゃいけない」という考えにとらわれているような気がします。

植島 セックスの定義が間違っているんですよね。セックスは「相手と、相手の身体を受け入れる」ということ。「受け入れる」というのは、射精することじゃなく、相手の体を愛して大切にするということ。そう考えると、ハグだってセックスの1つなんです。

――そのセックスに勝てるのは、キスだと本に書かれていますね。

植島 セックスに対するすごく狭い考え方を乗り越えるのは、キスに代表されるフラートを大切にしたいということです。その文化が日本に入ってくれば……でも入ってきてるんじゃないかな。昔はもっと公園や公共の場でキスしている人がいましたよね。今は全然見かけなくなったけれど、バブルの後遺症みたいなものなのかな? もしあのままバブルが続いていたら、今はもっと爛熟した性文化があったと思います。

――今はもっと即物的というか、キスからセックスまでの期間がものすごく短いのかもしれないですね。

植島 『官能教育』の中でも書きましたけど、一度セックスしたら、キスだけだった頃には戻れない。恋愛においては、一番豊かな時期なのに残念ですね。そのことは、もっとしっかり教えるべきだと思います。

――『官能教育』を読んで、私たちは「子どもを作るためのセックス」は学んでも、「恋愛を楽しむため、人を愛しむためのセックス」を学ぶ場所がなかったと思い至りました。

植島 セックスは単に射精したり子どもを作ったりすることじゃなくて、もっと豊かで楽しいはずのものなのに、楽しめていない人も多いんじゃないかな。でも少しずつ変わってきている。女性は積極的になってきたし、男性は今までの姿勢を反省してるし(笑)。先日もAV男優がサイン会を開催して人気を博したという記事を読みましたが、学ぶ機会や場所は多ければ多いほどいい。「これを見られたらもう終わり」といったエロ本やAVビデオを抱えているんじゃなくて(笑)、もっと中間状態がたくさんあっていいと思うんですよね。

官能教育 私たちは愛とセックスをいかに教えられてきたか (幻冬舎新書)
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