ドラマレビュー 2013年総括

『最高の離婚』『ラジオ』ら、2013年ドラマベスト5を選出!

2014/01/02 19:00
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『最高の離婚』/ポニーキャニオン

 『あまちゃん』(NHK)『半沢直樹』(TBS系)などヒットドラマに恵まれた2013年。『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)などドラマ評論で活躍するライター・成馬零一が2013年のドラマベスト5を選出した。

☆5位 『最高の離婚』(フジテレビ系)

 男女4人の離婚にまつわる騒動を描いた恋愛ドラマ。主演は瑛太、尾野真千子、綾野剛、真木よう子、脚本は坂元裕二、チーフ演出は宮本理江子という布陣だ。宮本は第1話しか演出していないが、全話において演出レベルは高く、『それでも、生きてゆく』、『最後から二番目の恋』(ともにフジテレビ系)で用いられてきた、長回しを多用することで役者の演技を魅せる宮本の方法論は、本作で完成したと言えよう。それは、坂元の脚本も同様だ。デートで食べる料理名から芸能人、音楽の名称まで、あらゆるものの固有名詞を散りばめた会話劇は作品内のリアリティを強固にする一方で、言葉にできないこと、例えば、恋愛感情の機微や唐突に到来する運命のようなものを描き出していた。

☆4位 『あまちゃん』(NHK)

 宮城県北三陸市という架空の街を舞台にした朝の連続テレビ小説。東京でくすぶっていた主人公の天野アキ(能年玲奈)が、海女になることで明るく変化し、やがて地元のアイドルになっていく。過疎化する地方の町おこし、盛り上がりをみせるアイドルシーン、そして東日本大震災……。80年代と対比される形で08~12年の日本が巧みに描かれている。脚本は宮藤官九郎。大人計画という小劇場の世界からやってきた宮藤が、ついに全国区となったという意味でも画期的であり、00年以降のテレビドラマ史の総決算だと言える。

☆3位 『ラジオ』(NHK)

 舞台は11~13年の宮城県女川市。津波で家が流され仮設住宅で引きこもる女子高校生・某ちゃん(刈谷友衣子)が、高校生が運営する女川さいがいFMで働くことで変わっていく姿を描いたドラマ。脚本は一色伸幸。物語はフィクションだが、某ちゃんや女川さいがいFMの学生たちにはモデルとなった人物が存在する。ドラマの中で炎上した、某ちゃんのブログも実際に本人の書いた内容だ。制作会社のテレビマンユニオンは、元々ドキュメンタリー番組の制作で定評があったのだが、本作もドキュメンタリーのような生々しい映像で印象に残る。

☆2位 『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)

 かまぼこ工場で社員として働く30歳の女性・越前さん(麻生久美子)が日々の鬱屈を晴らすために書いていた漫画の中の登場人物・はらちゃん(長瀬智也)が、現実の世界に飛び出し、彼女を励まそうとする異色の恋愛ドラマ。脚本は岡田惠和、プロデューサーは河野英裕。09年にジョージ秋山の問題作『銭ゲバ』(日本テレビ系)を、現代を舞台にドラマ化した2人が再タッグを組んだ本作は、作品のムードこそ童話的で温かいが、同時に残酷でもある。いわゆるメタフィクションで、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』等の押井守督のアニメを思わせるが、本作が描いているのは、夢(フィクション)から現実への帰還ではなく、フィクションの登場人物が現実に飛び出してくることで虚と実が混ざり合う世界だ。

☆1位 『Oh,My Dad!!』(フジテレビ系)

 妻に逃げられ家を追い出された、新型エネルギー(マグネシウム空気電池)を研究する科学者・新海元一(織田裕二)が、シングルファーザーとして息子と宿無し生活をするヒューマンドラマ。脚本は安達奈緒子、プロデューサーは増本淳。テーマ、演出、脚本、全てにおいて真っ当な作品だが、それ故とても痛くて重い。本来ならセールスポイントとなる織田のヒーロー性と、『マルモのおきて』(フジテレビ系)的なファンタジーとしての子育てを予め否定し、その上で現実的課題をコツコツと積み上げ、実現可能な理想を描こうとする試みは極めて誠実だ。その姿勢は、原発事故以降に争点となっているエネルギー問題を、「原発容認VS脱原発」という二項対立ではなく、「新型エネルギー開発」を企業のビジネス的側面から採算可能な着地点に落とし込もうとする姿にも現れている。今まで現実が見えていなかった新海が、子育てと向き合うことで社会性を身につけ、少しずつ成長する姿が描かれている。
 
【総括】

 視聴率や話題性では、『あまちゃん』と『半沢直樹』(TBS系)の大ヒットが記憶に残る。二作に共通するのは、普段ドラマを見ない視聴者を引きつけたことだ。特に、ビジネス誌を読んでいるような30代以上の男性を捕まえた『半沢直樹』は画期的な作品だった。この2作で見えた、新しいお客さんを逃さずに自分たちのドラマにどう引き込むか、という新たな課題は、編成サイドにかかってくるだろう。

 今のテレビドラマの基本フォーマットである1クール(1週間に1時間の番組を1話放送)という放送形態が視聴者のライフスタイルと食い合わせが悪くなっていることは明らかで、現在視聴率の面で成功しているドラマは朝ドラのような毎日15分放送される帯ドラマや、一話完結の職業ドラマだけで、あとは『半沢直樹』や『家政婦のミタ』(日本テレビ系)のような例外があるだけだ。例えば朝ドラのような帯ドラマを民放で作るような動きや、放送を見逃した人のフォローができるような体制を作ることができなければ、今以上にドラマ視聴者が離れていく状況は続くのではないかと思う。

最終更新:2014/01/02 19:00
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