深澤真紀の「うまないうーまん」第4回

「女性差別」は悪化してる? 女性を取り巻く「痛い」「こじらせ」の新たなしんどさ

2013/10/20 16:00

4.最近ネット上での「女性差別」がひどいのだから、逆に「女」であることを意識してしまうのでは?

 ネットがあるから女性差別がひどくなったわけではなく、現実にあった女性差別がネット上に移っただけだ。

 46歳の私からすると、昭和の方が女性差別はひどかったという実感はある。家族からも「女だから家事をしろ」「女だから塾なんていらない」と言われて育ったし、“セクハラ”という言葉が日本で広まるのは90年代以降なので、それまでは学校でも職場でも、無自覚な女性差別的な発言は非常に多かった。

 例えばいろんな場所で、何度か書いている話なのだが、私が編集者になった20代初めの頃、アメリカでセックスレスという言葉がはやりだし、「セックスレスな男たち」という企画書を出した。企画会議には50代から70代の男性役員が揃っていたのだが、「セックスレスって何だね? 据え膳食わぬは男の恥と言ってね」だの「君の彼(夫とつきあっていて、会社でもそれは知られていた)は、セックスしてくれないのかね」などという発言が平気で飛び交い、会議の後に女性の先輩にもそれを訴えたが「そんな企画を出したんだから、しょうがないわよ」で済まされたものである。結局、企画は通らなかったが、その後セックスレスという言葉が流行すると「出しておけばよかったね」などと言われたが……。

 メディアの女性差別の論調も、昭和の方がひどかった。ただネットがあることによって、女性にも、スポーツ新聞や男性週刊誌における「女性差別」の論調を読めるようになってしまったのは事実である。

 たとえばYahoo!ニュースには、朝日新聞からサイゾー、東スポまでが同じように並ぶのである。しかもネット上でのニュースは見出しが命なので、それがどの媒体で書かれた記事かを意識する人は少ない。これまで読むことのなかった男性メディアの論調を、女性たちも知ってしまったのだ。

 ちなみに私は学生時代からパソコン通信をやっているので、もう30年近くネットに関わっている。日本で最初のネット裁判と言われる「ニフティサーブ現代思想フォーラム事件」(1994年提訴、97年結審)にも関わったが(この事件をまとめた書籍『反論―ネットワークにおける言論の自由と責任』の編集も担当した)、もともとは女性差別発言によって引き起こされているものだった(ただし、裁判の争点は、公開ネットワークにおける言論の「自由と責任」とは何か、ということが大きく、この裁判ではすでにネット上での匿名の問題についても語られている)。つまり「最近のネットでは女性差別がひどい」というわけではないのだ。

 ただし、ネットによってさまざまな論調を知り、また女性同士でもさまざまな牽制をし合うことによって、女性たちに「自分は痛い女かどうか」「こじらせていないか」などの、新しいしんどさが生まれているのも事実だと思う。

 この連載では、「女であること」や「妻であること(ないこと)」や「母であること(ないこと)」にあまり夢中にならず、呪われることもなく、生きる方法を考えられたらなと思っているのである。

深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・編集者。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の金曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)など。

最終更新:2019/05/17 20:10
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