[連載]海外ドラマの向こうガワ

種明かしから始める、新感覚ホラー『アメリカン・ホラー・ストーリー』

2013/10/13 14:30

 『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』『glee/グリー』に続き、ライアンがブラッド・ファルチャックとタッグを組んで手がけた本作は、放送開始前からいろいろな意味で大注目されていた。新しいタイプのホラーが誕生するのではと期待が寄せられた半面、明るく楽しいイメージが強い『glee』で獲得した多くのファンが果たしてホラーを受け入れることができるのか、視聴率は稼げるのかと不安視する声も多く上がったのだ。

 しかし、その不安は放送開始後、すぐに打ち消された。ジャンルは異なるものの、『glee』と『アメリカン・ホラー・ストーリー』には多くの共通点があったのである。『glee』は、数多くのヒット曲をドラマのストーリーに絶妙に取り入れるという新しいアプローチ法で番組を成功へと導いたが、『アメリカン・ホラー・ストーリー』も、「悪魔」と「堕落」をまったく新しい角度から描き、ホラー制作の方程式「幽霊を最後まで登場させない」を打ち破り、最初から種明かしをしながら物語を進行させるという、誰も思いつかなかった新しいアプローチ法をとったのだ。シーズン1のプレミアは320万人もが視聴し、高視聴率を獲得。『glee』同様、タブーとされていたことをさりげなく取り入れたことも高く評価された。

 同作は、古臭い洋館が舞台で、1920年代、1940年代など過去に起こった事件の回想シーンも多く登場する。しかし、時代遅れな印象はなく、逆に新しい“スタイリッシュな美”を感じることができる。ハーモン家の夫を演じるディラン・マクダーモットの肉体美を拝めるエロティックなシーンも頻繁に登場しており、スプラッタが苦手な女性たちもミステリアスなストーリー展開に夢中になった。

 また、ホラーでありながら、人間の奥底に潜む欲が生み出すさまざまな悪行がドラマのスパイスとなっている点にも注目したい。ハーモン家は修復不可能なほど崩壊しているが、それでも夫婦は家族としての形を必死に保ち続けようとしている。しかし、彼らの悪行により修復は不可能となり、それだけでなく最も恐ろしい形で主人公たちに不幸が降り注ぐ。アメリカには、ハーモン家のように「表面だけでも仲良し家族でありたい」という偽りの家族が多いとされている。話を追っていく上で主人公と自分の心境を一致させたり、自己投影したりとハマっていったのだ。

 物語の鍵を握る重要人物・コンスタンス夫人を演じるジェシカ・ラングの狂気的な演技もこの作品がヒットした大きな要因だろう。ライアンは、このドラマをジェシカのために書いたと公言しているが、実は彼女は遅咲きの女優である上に、デビュー作『キングコング』(1976)が酷評され、干されてしまったという苦い過去を持ち、波瀾万丈な女優人生を送ってきた名優なのだ。強い精神力で見事復活したジェシカは、『トッツィー』(82)でアカデミー助演女優賞、『ブルースカイ』(94)でアカデミー主演女優賞を獲得。ブロードウェイでも大活躍し、ハリウッドを代表する演技派女優となった。テレビ映画『グレイ・ガーデンズ 追憶の館』(09)でエミー賞を受賞している彼女だが、テレビドラマシリーズにレギュラーとして出演するのはこの作品が初めて。ライアンのアプローチを快く受け入れ、本作で強烈な黒い輝きを放った彼女は2012年にエミーとゴールデングローブの両方を見事、獲得している。

 同作は、ワンシーズンごとに異なる物語を描くという形をとっている。ワンシーズンでストーリーが完結し、シーズン2は同じキャストがまったく別のキャラクターとして、新しいストーリーを演じていくのだ。あまりにも常識外れのドラマシリーズのスタイルだが、これが視聴者には大ウケ。視聴率は回を重ねるごとにうなぎ上りとなっている。

 おどろおどろしくも情緒的なホラーの世界を描いた『アメリカン・ホラー・ストーリー』。シーズン1では、精神的に追い詰められていくハーモン家の崩壊と堕落ぶりに、どっぷりとはまってしまうこと間違いなしだ。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。

最終更新:2015/04/15 15:46
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