介護をめぐる家族・人間模様【第17話】

「お前が楽をしたいだけちゃうか!」老いた父の言葉が、今も忘れられない娘

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 東京オリンピック開催が決まり、浮かれモードの世間だが、同時に「7年後の自分」に思いを馳せる人が多いようだ。7年をずっと先のことと思うか、あっという間だから今と大して変わらないと思うか。年齢によって全然違うだろうと思っていたら、街頭インタビューされていたおじいさんが「前の東京オリンピックの時は35歳だった。今85歳だけど、7年後も見たいね。一生で2度もオリンピックを見られるとは思わなかったよ」と無邪気に喜んでいた。7年後には、92歳。オリンピックを見る!? すごい自信だ。それくらいの気概がないと、長生きはできないってことか。

<登場人物プロフィール>
花井 享子(45) 姑、夫、子ども2人の5人家族。関西在住
大村 敏子(78) 享子の実母。老人ホームに入居している

■脳こうそくで倒れた母親、病院からは退院を迫られた

 花井さんは、毎週関西地方の山間部にある自宅から、実家のある町まで2時間かけて通っている。目的地は母親が入居している老人ホーム。1年前からこのホームで暮らしている。

「それでも今はまだ楽になった方なんです。2年前まではもっと大変でした。母が入院している病院に週2~3回行き、洗濯物を取って、その足で実家に回る。父の食事を3日分作って、掃除をして……。毎日いっぱいいっぱいの状況でした」

 花井さんの母親は2年前に脳こうそくで倒れた。半年は意識不明だったという。その後一命は取り留めたものの、後遺症が残った。リハビリもあまり進まないまま、病院からは退院を迫られた。

「とても自宅に戻れるような状態じゃありませんでした。家族の顔もわからへんし、言葉もほとんど出ない。車いすに座ることさえ難しいのに、退院してくれと言われて、途方に暮れました。選り好みしている場合じゃないので、手当たり次第、実家の近くの老人ホームに受け入れを打診して、ようやく見つかったのが今のホームです」

 しかし、次に花井さんが頭を悩ませたのが、父親をどうするかということだった。

「父は元気でしたが、これまで母に何でもやってもらっていたので、自分の身の回りのことだって満足にできないんです。兄はいるんですが、東京で家庭を持っているので、あてにもできない。母が自宅に戻ることがないとなれば、これからずっと父を1人にしておくわけにもいきません。それでホームに聞いてみると、まだ部屋に空きがあるという。それなら、父も同じホームに入れてもらえば、問題は解決すると安心したんですが……」

■父は幸せだったのか。今も自問する

 父親は自宅を離れるのを嫌がった。生まれ育った場所で死にたいと言い張ったと言う。父親の気持ちも痛いほどわかったので、花井さんは努めて冷静に父親と話し合った。

「私も嫁いだ身やし、兄も東京。そうそう頻繁に父の元には通えない。母が自宅に戻れる可能性はもうないんだから、お父さんがお母さんのそばにいてあげるのが一番いいんじゃないか。そんなふうに説得したんです。兄からも同じことを話してもらったんですが、父は納得しなかった。父も感情的になったのでしょう。『俺を施設に入れるのは、お前が楽をしたいだけちゃうか!』と言われたんです」

 娘だから、言ってしまったのだろう。でも、娘だからこそ言ってはいけなかった。そう言われた花井さんの気持ちは想像に難くない。

「父も本音を言って、『しまった』と思ったのか、すっきりしたのかわかりません。でも、それから私たちは施設の話をするのをやめました。私もこれ以上傷つきたくなかったし、父を追いつめたくなかったので」

 花井さんは考えた末に、父親には家事サービスと夕食宅配サービスを頼むことにした。

「父はそれでもまだ、家に他人が入るのは嫌だと言っていましたが、押し切りました。これだって、私が『楽』をしようとした結果です。でもそうでもせんと、これからの長丁場は耐えられないと思いました。母がホームに入ってから、私は週1回、実家に寄って父を連れて母の面会に行くという生活になりました。それだって、決して『楽』じゃありませんでしたが、父が自宅で暮らせるなら満足だろうと思っていたんです。でも、それでよかったのかどうか、今もまだ自問してしまうんです」

 花井さんの言葉の意味が一瞬わからなかった。過去形?

「父は、母がホームに入って3カ月後、自宅で亡くなったんです。くも膜下出血でした。家事サービスの会社から、父の応答がないと連絡を受けて、駆けつけた時にはもう亡くなっていました。人の命って、本当にわからんもんやと思います。生死の境をさまよった母は、ホームでリハビリに力を入れるうちにずいぶん回復しました。言葉も出るようになって、会話も少しずつですが、できるようになりました。父は元気そのもので、あんなに自宅を離れるのを嫌がったのに、あのやりとりからたったの3カ月後にはいなくなってしまった。無理やりホームに入れていたら、どうなっていただろうと考えることもあります。発見が早くて、命は助かったかもしれない。でも、自宅で死ねて、父は幸せだったのかもしれない。いまだに堂々巡りです」

 お母さんは、ご主人の死を知ってショックを受けたでしょう。そう言うと、花井さんは少し笑って言った。

「母は、父の死を知らないんですよ。父が亡くなったことは、母には知らせていないんです。母も父のことは何も聞きません。もしかしたらうすうす気づいているのかもしれませんが、わざわざ知らせることはないと思ってます。私も母もこのまま静かに生きていきたいんです」

家族だから言葉ひとつの傷が怖い

しぃちゃん

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