深澤真紀の「うまないうーまん」第2回

“草食男子”の二の舞い? 「女の敵は女」を喧伝するおやじ週刊誌

2013/09/20 18:00

 そうやって若者叩きに逃避してきたおやじたちが、今度は「働く女」や「女の出産」を叩き出したわけである。上記の雑誌の内容はこんな感じである。

 「女で地獄と化す職場」(日経ビジネス)
 「バリキャリママvs.ゆるキャリママ 仁義なき抗争」(東洋経済)
 「『女が女を嫌いになる原因』働く30代女子が大放談」(プレジデント)

 女叩きをするおやじたちは、こんなふうに女同士を競わせるのが好きだ。そして残念ながら、私たち女性も「女の敵は女」だと思い込まされてしまう。「女の敵は男」であることの方がずっと多いにもかかわらず、だ。

 その象徴が、おやじ週刊誌である「週刊現代」8月31日号(講談社)に作家・曽野綾子が寄稿した「『私の違和感』 何でも会社のせいにする甘ったれた女子社員たちへ」である。曽野綾子自身は、自宅でできる作家という職業で(つまり会社勤めはしていない)、同業の夫を持ち、結婚後は母と同居して家事をしてもらい、家には女性秘書までいるという“恵まれた特殊な環境”で働き、結婚し、子育てしてきたわけである。

 それなのに、「子供が生まれたら会社を辞めろ。それでも、働きたければ子育てが終わってから再就職しろ。それでキャリアダウンしても仕方ない。何か一つの仕事をしたら犠牲が伴う」というわけである。というか、「週刊現代」は曾野綾子の名を借りて、そう言いたかったのだ。

 さらに翌週(9月7日号)の「週刊現代」は、「『ひどい!』『その通り!』と大論争に 曽野綾子さん『出産したら会社を辞めなさい』私はこう思う」という特集を組み、そこで曾野綾子支持派の評論家の金美齢と西舘好子と、反対派の社会学者の上野千鶴子と産婦人科医の宋美玄を登場させる。

 ところがなぜか最後に登場するのは、映画監督の大林宣彦なのである。要するに「女を競わせて、最後は男が上から目線でその問題を語る」という体裁だ。しばらくはこの手の女叩きが、さまざまな媒体で特集されるだろう。

 しかし一方では、話題にならなかったデータもある。JTBモチベーションズが2009年に行った「上司の性別が部下のモチベーションなどに及ぼす影響」の調査結果だ。これによると、

●女性上司がいる男性は、モチベーションが高い
●女性上司がいる男女の方が、男性上司がいる男女よりも、「今の上司の下にいると、やる気になる」
●女性上司がいる女性は、上司の能力、リーダーシップ、部下への対応などを高く評価
●男性上司がいる女性の33.5%が、上司に対し、「リーダーシップがない」という不満を持つ

 だというのだ。くわしくはサイトを見てほしい。

 たしかにバブル世代のおやじ上司よりも、苦労している女性上司の方が、イマドキの部下にとっては、ずっと頼りになるだろう。

 つまり、現実逃避しているだけのおやじたちの悪意を、真に受ける必要などないということだ。

 もう一度言うが、「女の敵は女」じゃなくて、こういうおやじだからね。

深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・編集者。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の金曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)など。

最終更新:2019/05/17 20:11
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