介護をめぐる家族・人間模様【第15話】

「夫は義母を介護してくれる人が欲しかっただけ?」SNSで再婚した嫁の嘆き

2013/08/25 19:00
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Photo by G.C. from Flickr

 それにしても、暑い。「節電節電」はどこへやら。節電していたら、命が危ない。そう思ってエアコンをつけている人も多いと思うが、電力不足が叫ばれていた去年や一昨年と、電力供給体制にそんなに変わりはないはず。原発を動かさなくても、電力は足りるってこと? そういうことこそ、マスコミは報道すべきだと思うんだけれど。

<登場人物プロフィール>
川口 清美(48)再婚して東北に住む。元夫との子ども2人のうち、長男は元夫の元で暮らし、16歳の長女、現夫、義母との4人暮らし
川口 栄一(54)清美の夫。前妻とは10年前に離婚
川口 スミエ(82)栄一の母。在宅で介護を受けている

■「苦労するのは目に見えている」両親も友達も再婚に大反対だった

 川口清美さんはバツイチ。5年前に再婚して東北に住んでいる。

「生まれも育ちも東京なので、東北には今一つなじめません。この5年ずっとここに私の居場所を作ろうとしてきましたが、最近はもう一生よそ者だと覚悟しています」

 今の夫と知り合ったのは、SNSだという。

「当時、私は元夫と離婚して間もない頃で、2人いる子どもも自分では育てられなくて元夫の元に置いてきていました。やっと仕事を見つけて働き始めたものの、将来への不安や夫に裏切られた絶望感、子どもを置いてきたことへの後悔などでいっぱいでした。元夫は事業を経営していて、私は社長夫人として贅沢な暮らしをしていました。それが、従業員の女の子と夫が浮気をして、まさか自分が妻の座を奪われるとは思いもしませんでした。そんなやり切れない気持ちや孤独感を埋めてくれたのがSNSだったんです。そこで気が合ったのが今の夫です。夫もバツイチで、同じ境遇だと思うと親近感は一層増して、実際に会おうかという話になるのにそう時間はかかりませんでした。会ってみても、夫の印象は変わりませんでした。ネットで想像していたよりもよかったかもしれない。東京まで頻繁に訪ねてきてくれるようになって、この人ならもう一度男性を信じてもいいかなと思えるようになりました」

 インターネットでの恋愛が実を結び、川口さんは再婚した。生まれて初めて東京以外の地で暮らすことになる。

「私の両親も友人も大反対でした。なんで今更そんな遠いところに行くんだってね。しかも、夫の母親とも同居だったんです。私が苦労するのは目に見えていると。でも、私はもう一度幸せになりたかった。それに、打算的かもしれませんが、経済的にも安定した暮らしがしたかったんです。今の夫は地元の大企業の管理職。子どもたちを引き取っていいと言ってくれました。だから義母との同居くらい大したことはないと思ったんです」

■「義母は私の介助がないと生きていけない」

 再婚した川口さんは、間もなく義母との関係に悩むようになった。

「義母も私たちの結婚には反対していたようです。パソコンなんて怪しげな世界で出会った、どこの馬の骨だかわからないバツイチ女との結婚を、簡単に許す親もそうはいませんよね。しかも連れ子までいるんだから。後からわかったのですが、夫が前の奥さんと離婚した原因も義母だったようです。夫の親戚がポロリと漏らしたんですが、きつい性格で、随分ぶつかったらしいです。義母は一人っ子の夫を溺愛していて、嫁というだけで憎くてしょうがなかったんでしょう。驚くというより、『やっぱりね』って感じでした。夫も優しい人だから、義母に何も言えないんです。今もそう。私と再婚したのも、義母と同居できるということだけが理由だったのかもしれません。『24時間、無料のヘルパーを見つけた』ってね。地元の人なら誰でも知っている夫の離婚原因も、SNSならわからないし」

 川口さんはただひたすら義母の言動に辛抱してきた。

「5年たつうちに、義母もすっかり弱くなりました。自分の身の回りのことも私の介助がないとできないくらい。それでも性格は相変わらずきついですよ(苦笑)。私の料理の味付けが気に入らないらしくて、機嫌の悪い日は口もつけません。介助の仕方が悪いと癇癪を起こしたり、時には叩かれたりもします。

 最初のうちは私も泣いていたけれど、最近は随分強くなりました。だってどんなきついことを言っても、私の介助がないと生きていけないんだから。味付けが嫌いで食べなくても、それで困るのは義母でしょ。夫に言いつけてるみたいだけど、私に出ていかれて困るのは夫も同じ。だんだん立場が逆転するんですよ、辛抱していればね。心配していた実家の両親のところにも、今は『介護休暇をいただきます』と言って月に1回は帰っています。両親も年を取ってきて、近くにいてあげられないのが申し訳なくて」

 川口さんの気がかりはもうひとつある。子どもたちのことだ。

「元夫のところにいる長男にも寂しい思いをさせていると思いますが、それよりこちらに連れてきた娘のこと。親の都合で、まだ幼いのに母親と離れて暮らしたり、今度は見知らぬ土地で血のつながらない新しい父親と祖母と同居させられたり。挙げ句の果ては私と義母との折り合いの悪さを見て、神経を擦り減らしてしまったのでしょう。こちらに来て1年ほどで不登校になってしまった。今はフリースクールに在籍してはいますが、ほとんど家にいるんです。この子の将来を考えると……だからやっぱり義母のことは我慢して、夫とうまくやっていくしか方法がないと思ってしまうのかもしれませんね」

 川口さんにとって、再婚は結局再就職だったのかもしれない。住み込みのヘルパー。月に1回、休みあり。

最終更新:2019/05/21 16:08
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