ドラマレビュー第13回『Oh,My Dad!!』

織田裕二の「熱血さ」「ウザさ」を魅力に反転させる、手加減のない『Oh,My Dad!!』

2013/07/23 16:00
ohmydad.jpg
『Oh, My Dad!!』公式サイトより

 『スターマン~この星の恋』(フジテレビ系)、『Woman』(日本テレビ系)と、今期のドラマはシングルマザーを題材にした作品が並んでいる。細田守によるアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』もそうだが、子どもを守る母親というモチーフは、ここ数年人気の題材で、それだけ子育てに対する関心や母親として社会に向き合うことの困難さに、世間が感心を持っているということなのだろう。

 そんな中、逆にシングルファーザーの子育てを描いているのが、フジテレビ系列木曜10時に放送されている『Oh,My Dad!!』だ。

 主演は織田裕二。脚本は安達奈緒子、プロデューサーは増本淳という『大切なことはすべて君が教えてくれた』『リッチマン、プアウーマン』(ともにフジテレビ)を制作した2人で、近年最も面白いドラマを作っているチームの作品だ。

 織田裕二が演じる新海元一はマグネシウム空気電池という、新型エネルギーを開発して、若い頃に高い評価を受けた科学者。しかし、40歳を超えた今でも実用化にこぎつけられず、生活は困窮。生活に疲れ果てた妻の紗世子(鈴木杏樹)は、子どもを置いて家を出て行ってしまう。その後、新海は家賃滞納のためアパートを追い出され、工場に間借りしていた研究所も閉鎖となり、息子の光太と共にホームレス状態になってしまう。ネットカフェやファミレスに寝泊まりしながら、何とか生活費のために派遣のアルバイトで日銭を稼ごうとする新海だが、光太の保育園への送り迎え等の世話をしながらのため、中々仕事を見つけることができずに、公園で野宿する生活が続いている。というのが第2話までのあらすじ。

 今後は家族が元通りになるのか? 新海の研究が認められて一発逆転はあるのか? などがドラマの見どころとなるのだろうが、現時点では先行き真っ暗で、ポップな番宣やCMとは裏腹に『Woman』以上に重い展開が続いている。ドラマが設けた初期設定のハードルの高さに「こんな無理ゲー、クリアできるのか?」と他人事ながらも心配になる。

 ドラマ自体は、織田裕二が20代の頃に主演した『お金がない!』(同)を彷彿とさせるが、バブル崩壊直後とはいえ、まだ世相が明るかった1994年に放送された同作に比べ、『Oh,My Dad!!』は2013年の厳しい空気が反映されていて印象はシビアだ。何より20代の貧乏と40代の貧乏では、意味がまったく違う。

 織田の持つ熱血性や明るさは、国家公務員の青島刑事ならば魅力となるが、元科学者で今はホームレスの男がその熱量で科学の夢を語る様は、虚しく上滑りしている。むしろ新海のピュアな少年性の裏にある、現実が見えていない無神経さは、周囲の女性や息子を傷つけてしまう。

 安達奈緒子は前作『リッチマン、プアウーマン』でも小栗旬や石原さとみの既存のイメージをなぞりながら、視聴者が漠然と役者に感じている「ちょっとウザい部分」を役柄にうまく取り込むことで、逆に人間的魅力を役者に与えることに成功していたが、今回の新海も、織田の熱血性と明るさ、そしてコメディセンスで久々のハマり役となっている。

 同じように無一文のホームレスに失墜するところからスタートした木村拓哉主演の『PRICELESS~あるわけねえだろ、んなもん!~』(同)が、作り手が木村に遠慮した結果、生温いドラマに終わったのとは真逆で、作り手が織田に遠慮することなく、本気で作品と向かい合っているのがわかる手加減のないドラマに仕上がっている。
 
 しかし、その手加減のなさが、視聴者にとってストレスとなっているのも事実だろう。視聴率は第1話の13.3%から、第2話は8.4%と急落し、決してかんばしくはない。第2話終了後の予告では、なぜか第7話までのあらすじが紹介されていたのが、作り手の危機意識の表れかもしれない。

 男親の視線を通して子育てと仕事の両立の困難さを描く視点の置き方や、日本に忍び寄りつつある格差社会など、ハードな部分はしっかり描かれている。安達の台詞も相変わらず鋭く、『ドラえもん』の秘密道具を比喩的に用いるのも実にうまい。だが、現実を描くだけならドラマにする意味はない。やはりフィクションならではの喜びや逆転劇が見たいものだ。

 つらい展開が続く本作だが、新海の元彼女・早坂美月(長谷川京子)や、新海の後輩・岸田(八嶋智人)の、ダメなやつだと思いながらも、新海を嫌いになりきれない距離感の関係は微笑ましいし、なにより、息子・光太(田中奏生)とのやりとりは魅力的だ。大人にとって過酷な現実でも、無邪気に楽しんでいる光太を通して、子どもが側にいる楽しさを描けるかどうかが、今後の鍵ではないかと思う。この辺り、『マルモのおきて』(同)を手掛けたチーフ演出の河野圭太が入っているので問題はないだろう。作品自体は今期のドラマでは一番面白いので、物語と同じように視聴率にも、どん底からの一発逆転を期待したい。
(成馬零一) 

最終更新:2013/07/23 16:14
『ウザい奴を言い負かす技術』
UZの自家中毒に陥りそう!
アクセスランキング