[官能小説レビュー]

都会暮らしの匿名性が快楽を加速させる、“隣人”の欲情ドラマ『となりの果実』

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『となりの果実』/幻冬舎

■今回の官能小説
『となりの果実』(黒沢美貴、幻冬舎)

 都会に住む人たちは、一体どれだけ隣人のことを知っているだろう? うっすらと顔形が判別できればいい方、ほとんどが「隣は何をする人ぞ」ではないだろうか? 薄い壁の向こう側には、想像もつかない他人の人生が繰り広げられている。穏やかな家族生活を営んでいる、夜な夜なAVを眺めて自慰行為に耽っている、あるいは、恋が叶わずに自暴自棄になっているかもしれない。
 
 今回ご紹介する『となりの果実』(幻冬舎)には、都会の喧噪にひっそりと寄り添う隣人たちの姿と、その交差が描かれている。舞台は都会のド真中、麻布十番のマンション。彼らは、その小さな一角で人生ドラマを繰り広げている。

 ベテランホステスを7年間続けていた友美が贅沢な生活を保ち続けられるのは、パトロンである伊佐夫のおかげ。20代半ばから水商売の道に足を踏み入れた友美にとって、建築会社の社長である伊佐夫は“良いカモ”。身体を差し出せば、いくらでも金を落としてくれる存在であり、友美は伊佐夫のナンバーワンポジションを死守しつつ、夜な夜な淫らな声をあげる。枯れかかった伊佐夫に身体を開くのは、友美よりもひとまわりほど若い、俳優志望の純平を育てるためだ。

 そんな友美がマンションですれ違う男・悠也は、女を転がすホスト。美しいものに欲情し、侮蔑の対象は容赦なく切り捨てる。運よくホストの座を確立し、頂点を取ったかのようにのさばる悠也の周りに群がる女性は少なくない。水沢マリもそんな客の1人だった。

 外資系のメーカーに勤めていることから、一般的なOLよりは多少良い暮らしをしているマリは、浪費癖があった。ブランドものを買い漁り、足しげくエステや旅行に出かけ、週末はホストクラブ「ゴールドウルフ」の人気ホスト・輝一郎に惜しげなく貢ぐ。すべては、輝一郎の正式な“カノジョ”になるためだ。そんなマリは、ホストクラブでトップに君臨したい輝一郎にとって、格好の餌食だった。

 醜い肢体を持つ者は、輝一郎の性対象ではない。だからマリは、金をかけて肢体を磨く。輝一郎に金をつぎ込み、身にそぐわない高価な酒をオーダーする。彼女が口にするのはスウィーツのみ。パスタや定食などは一切口にせず、薬を貪るようにチョコレートバーやフルーツのタルトばかりを頬張り続ける。

 輝一郎の心を自分だけのものにしたいマリの貢ぎ方は、どんどん加速していく。しかし、懇願されるままにドンペリ・ゴールドを入れた夜、閉店後に彼が店から連れ立って出て来たのは、マリよりもうんと歳上の女。裕福そうな“ババア”だった。マリは彼らがロールスロイスに乗って走り去る様子を見送り、呆然と立ち尽くす。

 自分自身の立場から目を背け、「ホストクラブ」という目先の輝きにしか目を向けない。「人生は、打ち上げ花火のようなもの」という自分の生き方に陶酔し、運動場の白線を越えるように、簡単に日常と快楽の境界線を超えてしまうマリ――。

 しかし、マリのように人生において大それた成功なんか望まず、ただ愛する男から愛され、幸せになりたいと願う女性はたくさんいるし、時として都会の目映いネオンや喧噪に溺れ、幸せの感覚が麻痺してしまうこともある。『となりの果実』は、マリを始めとする普通とは生き方が異なった登場人物を通して、「もしかしたら、顔見知り程度の私の隣人も、この物語に描かれてているような激しい欲情ドラマをリアルタイムで送っているのかもしれない」と読者に妄想させるのだ。

 「一瞬の快楽や輝きに執着して、悶え苦しんでいる」そんな人物が隣人かもしれない可能性を、都会暮らしの人は、誰も否定することはできないのだ。
(いしいのりえ)

残念、あたちんちは両隣空き家なの

しぃちゃん

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