[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」6月22日号

セックスレスが免罪符に? 「婦人公論」から見えてきた性への渇望

2013/06/16 19:00

 そんなアラフィフ女性たちに“書を捨てよ、町へ出よう”と啓蒙しているのが美保純×湯山玲子の「『美魔女』に『女子会』、うつつを抜かすとセックスが遠くなる!?」です。「若い男を前にすると、お母さんを演じてみたり、妙にサバサバ系をやってみたり。もっと素直に欲望が自分の中にあることを自覚して、肯定していいと思う。でも、その勇気がない」とは湯山。「浅くて足がつくプールでばかり泳いでいても上達しないから、一回深いプールで泳いでみようよと言いたい」と美保。50代のセックス格差を解消するには、自分から深いところに飛び込むしかない。それはご無沙汰な夫に対しても同じで「50歳過ぎたらね、1回断られても、さらに4回はノックしないと」とのことです。郵便配達は2度ベルを鳴らし、五十路妻は夫の股間を5回ノックする! これに尽きる!

セックスレスという踏切り板

 夫を焚きつけるにしても外注を狙うにしても、とにかく「待つ女からの脱却」が肝要。美保も湯山も繰り返しそれを強調していました。では実際自分の中に眠る欲望に自覚的になった場合、どのような現象が起こるのでしょうか。「匿名座談会 妻たちの“夜”の事情、知らぬは夫ばかりなり」に登場するのは、美保の言う「深いプール」に飛び込んだ既婚女性ばかり。

 スタート地点はみな同じ「夫とのセックスレス」ですが、その後の道のりが三者三様です。伝言ダイヤルで初めて「イク」感覚を知った方、夫婦間のセックスに思い切ってオモチャを導入した方、ハプニングバーで性に開眼された方。一度走り出した性欲という名の暴走電車はそう簡単に止めることはできません。「私はオーガズムの感覚を知ってから、ほかの男性としたらどうなるのか、気になってどうしようもなくなりました。そこで見つけたのが、複数プレイをするサークルです」……どうでしょう、この振れ幅のデカさ。そのサークル活動で念願の「緊縛」プレイを体験し、「初めて彼に縛られたときは、もう、濡れましてね。縛られている状況を考えているだけで」とうっとり。「(マスターベーション中)夫の枕のにおいで『パパ~』ってイッちゃう」というオモチャ妻がかわいらしく見えてきますね。

 気になるのは、その性欲電車の終着点です。“伝言ダイヤル妻”発“複数プレイ妻”経由の“緊縛妻”は「私は最近、ますます夫から気持ちが離れています。(中略)彼にもそれが伝わったみたいで、昨年離婚を切り出されました」。しかし経済的な問題から夫婦関係は現状維持なのだとか。“ハプバー妻”は「大学生になった息子がこちらの世界に入ってこないとも限らない」ということでハプバー通いは控え気味。快楽の大きなウネリの中で何かが劇的に変わるのかと思いきや、女たちはあくまでフツーになに食わぬ顔で日常を過ごしていました。

 「2人の自分がいることでバランスを保つことができているのも事実。普通じゃない世界にいる自分と、子どもの世話をして夫とも仲良くやっている主婦の自分と」。人格のスイッチを入り切りしながら、進む女の花電車……。もし、夫と定期的にセックスがあったなら、この電車が走り出すことはなかったのでしょうか。「夫とはセックスレス」という事実が、彼女たちを欲望へと走らせる安心材料になっていると思えなくもありません。逆に言えば、既婚女性が性を正直に語るのはそういう「傷」がないと許されないのか。セックスレスが自由な性を模索する免罪符になっているとしたら、それはそれでちょっと切ない話ですね。

 結局「癒やしのセックス」ってなんだという話ですが、この特集からはただ「挿入」や「快楽」に支配されるだけのセックスからは卒業しようという趣旨のメッセージを受け取りました。決して経験豊富な遊び人だけが「癒やしのセックス」という彼岸の地に辿り着けるわけではない。経験人数の多少や経験プレイの幅ではなく、セックスしたい時にしたいと言えるようなパートナー関係を結んでいるか、恥ずかしい性癖もすべてをさらけ出せる関係を築けているかに、真の「セックス格差」は存在するのではないでしょうか。だから奥さん、あきらめないで。「夫がしてくれない」と嘆くより、一発ドーンと押し倒してみたら、案外新しい扉開いちゃうかも。
(西澤千央)

最終更新:2013/06/16 19:00
「婦人公論」
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