ドラマレビュー第6回『ラスト・シンデレラ』

演出もストーリーも安直な『ラスト・シンデレラ』における三浦春馬の怪物性

2013/05/27 11:45
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『ラスト・シンデレラ』公式サイトより

 枝葉が幹をへし折り、ぐんぐんと伸びている。フジテレビ系木曜劇場で放送されている『ラスト・シンデレラ』をみていると、そう思う。

 主人公はヘア―サロンの副店長を務める39歳の遠山桜(篠原涼子)。仕事が忙しくて恋愛がご無沙汰の彼女の顎にヒゲが生えるところから、物語がはじまる。桜の同期のヘアサロンの店長・立花凛太郎(藤木直人)とは、お互いに憎まれ口を聴きながらも、信頼関係が出来上がっている友達以上恋人未満の仲。親友の竹内美樹(大塚寧々)は、夫の公平(遠藤章造)とは一年近くセックスレスで、その夫は、実はインポテンツで、桜のもう一人の親友・長谷川志麻(飯島直子)に気持ちが傾いている。物語は彼らアラフォーの男女の人減関係に、24歳の佐伯広斗(三浦春馬)と、23歳の大神千代子(菜々緒)が、絡むというセックス・コメディとなっている。

 妙齢の男女の恋愛模様をコメディタッチで描くというスタイルは、同じ木曜劇場で放送されていた『最後から二番目の恋』を彷彿とさせるが、出来は雲泥の差で、ポップと下品をはき違えた安直な作品だというのが、正直な感想だ。

 本作のプロデューサー・中野利幸は本作以前に『私が恋愛できない理由』(フジテレビ)、『結婚しない』(フジテレビ)といった、恋愛から遠ざかっていたり奥手だったりする人たちの恋愛ドラマを制作している。恋愛が苦手な人の恋愛ドラマは『モテキ』(テレビ東京)以降、恋愛ドラマの大きな流れとなっていて、どのテレビ局も、モテない女性を主人公にした第2の『モテキ』、を作ろうと躍起になっているが、主人公に香理奈や篠原涼子を配置している時点で、ピントがズレてるとしか言いようがない。

 かつてのトレンディドラマのような女性ファッション誌の中にしかないようなオシャレなマンションに住んでいる女性を主人公にしている時点で、本来描くべき物語のコンセプトと大幅にズレている。本当に『モテキ』を倒したいのなら、まずは美術設定から見直すべきだ。その意味で、演出もストーリーも評価できない。しかし、その欠点を補って余りあるのが、佐伯広斗を演じる三浦春馬の存在だ。

 酔った勢いで、ホテルで一夜を過ごしたことがきっかけで、広斗と桜は付き合いはじめるが、実は桜に接近したのは千代子に頼まれたからだ。広斗と千代子は兄妹で、桜を凛太郎から引き離すために千代子は広斗を桜に接近させたのだ。桜たちの軽さに較べて、ドロドロの2人の関係は、作品内では不穏な気配となって当初から気になっていた。この感じ、中野利幸の代表作『ラスト・フレンズ』(フジテレビ)を彷彿とさせる。同作は、DVや性同一障害など、様々な悩みを抱えた男女がシェア・ハウスで共同生活をおこなうドラマだったが、放送当時、もっとも話題になったのは、主人公の女性に暴力をふるう及川宗佑(錦戸亮)の存在だった。『流れ星』(フジテレビ)における、妹を風俗で働かせて金をせびりながらも、無償の愛を注いでいると思っている横原修一(稲垣吾郎)もそうだが、中野Pのドラマは、中心となる恋愛ドラマよりも、その周辺で、彼らに対して歪んだ愛憎を燃やしている敵役を描いた時の方が、妙な迫力を発揮する。

 もっとも、視聴者人気が予想以上に高かったせいか、ここ最近の展開では、広斗は本当に桜のことが好きな良い奴ということになったようで、このまま桜と結ばれて終わりかねない雰囲気となってきている。

 この展開自体は別に構わないのだが、広斗にフォーカスが当たるほど、アラフォーのおやじ女子に健気に尽くす彼の存在が、視聴者と桜たちの性的欲望を満たすご都合主義的なイケメンでしかないことが明らかになり、過剰に盛り込まれた広斗の上半身半裸のサービスカットをみる度に気持ちがどんどん萎えていく。だが、そんな広斗を、三浦春馬は、真正面から完膚なきまでにカッコいい存在として演じていて、そのプロ意識には心底感服する。このドラマは彼一人で持っていると言っても過言ではない。

 映画『恋空』のヒロを筆頭に、三浦春馬は女子高生のセックスシンボルとして、与えられてきた役割を100%演じてきた。彼の演技からは、本当の自分を見てほしいというエゴや、自意識の臭みが欠落しているように見える。プロ意識と言えば聞こえがいいが、その「自分のなさ」は、ある種の怪物性として、妙にひっかかっていた。

 そんな女性の欲望に殉じ続ける自分の無さを、うまく役柄にフィードバックしていたのが『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ)の柏木修二だったが、今回の広斗は、年齢を重ねたこともあり、他者の欲望に殉じ続ける自己が欠落したイケメンとしての破壊力が倍増している。

 桜の話に魅力がないため、もはや本作は、三浦春馬を楽しむための作品となっているが、それもまたドラマの持つ面白さだろう。
(成馬零一)

最終更新:2013/06/03 11:47
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