[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」2月7日号

「婦人公論」がカオス! 泉ピン子を黙らす、かなりアレな人物が降臨

2013/01/26 19:00
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「婦人公論」2月7日号(中央公論新
社)

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「今日からはじめる心のレッスン イライラしない人には“福”が来る」です。そして表紙は大竹しのぶ。どピンクのスカートの上に黒いメッシュを巻きつけた、素人目には判断しかねるファッションで登場しています。まるでケモノ肉に黒い網脂を巻いた魔女料理完成! といったところ。しかしそんなマジカルファッションも、この方の「個性派」「演技派」「あの明石家さんまを本気にさせた」という看板のもとに集約されていくのでありましょう。う~ん、考えてみたらこの“大竹しのぶ”という女優さんこそ、「中年女性をイライラさせる存在」じゃないですか。インタビューでも、仏の伝説的歌手エディット・ピアフの生涯を描いた舞台『ピアフ』で、「ピアフは精神的にも肉体的な治療にも薬を常用している状態だったので、演じている私の身体も痺れたりするのですが」と憑依女優っぷりをさらっとアピール。女優としての大竹しのぶを徹底してくれればいいのですが、「普段の私は、娘のIMALUからエネルギーをもらっています」という“母”の一面を出すことも忘れないこの用意周到さ。黒い網脂、己のジューシー余すことなし!!

<トピックス>
◎イライラしない人には“福”が来る
◎上野千鶴子のニッポンが変わる、女が変える
◎石川道子×泉ピン子「資源の分かち合い」ができれば、戦争もテロも不要になる!?

■茂木センセイこそ歩いた方がいい!

 前号では「今年は、幸運を積み重ねる生き方を」、そして今号は「イライラしない人には“福”が来る」、1月は怒涛の招福攻めのようです。

 しかし今号は、前号の「辛い時でも笑顔で」という説教臭いノリとは少々違うようです。「今年こそ、おだやかに過ごしたい。そう願っていても、とっさの感情は抑えがたいもの。努力しているのにうまくいかない!!というあなたに、苛立ちから解き放たれるための、とっておきの秘策集めました」とはリードの弁。女性ホルモン欠乏気味の中年女性に向けられるイライラ解消の秘策とは気になるところです。

 安定のというか案の定というか、冒頭で登場するのは煩悩時代の救世主・瀬戸内寂聴先生。「“和顔施”で生きましょう」というタイトルで、女はいつの時代も煩悩に苦しんでいたこと、煩悩から生まれるイライラを胸に溜め込まず、いつでも“和顔施”(相手に笑顔を施すというのが1つの徳になる)でいることの大切さを説いています。

 「私なんて出家前に3回ぐらいヒステリー起こして自分で髪を切ったわよ! 男関係のゴタゴタで!(※要約)」と意気揚々と語る先生。さらに「でも髪はギシギシして切りづらいから、代わりに広辞苑を投げつけることにしたけど!(※要約)」と。寂聴先生を見る度に、久しぶりに会った中学時代のドヤンキーが青汁を飲んでいたことを思い出すのです。仏恥義理からの青汁……。

 この後、茂木健一郎氏の「脳からごきげん物質を出す方法」、日本アンガーマネジメント協会代表理事・安藤俊介氏の「『アンガーマネジメント』であなたの怒り、抑えられます」と続くわけですが、どちらも一様に「昔はオレも相当イライラしていたけど、今は」という流れ。正に青汁CMですね。

 安藤さんに関してはわかりませんが、茂木先生は今でも立派なイラ人ではないですか。Twitterで四方八方に八つ当たりしているアレは、別人……? しかも「脳からごきげん物質を出す方法」なんていうハードル高めのタイトルでありながら、茂木先生のイライラ解消法が「歩く・運動する/掃除など、家事に没頭する/気の合う人に悩みを話す/旅行や散歩などで場所を変える」って、親戚のおばちゃんでも提案できそうな内容。「ウォーキングを行うと、脳内にベータエンドルフィンという物質が放出され」とか、おもいッきり生テレビっ子のおばちゃんなら大体知ってますから!

■宇宙からやって来た、ピン子潰しの使者

 非常に対照的な対談を二つご紹介。「上野千鶴子のニッポンが変わる、女が変える」と「石川道子×泉ピン子『資源の分かち合い』ができれば、戦争もテロも不要になる!?」です。

 上野先生の対談相手は、環境リスク学者の中西準子。「リスクを選んで生きる」と題して、3.11以降の放射能リスク問題から「安全・安心」をどう選び取るかを“真面目に”論じています。東電、原子力保安院、政府、官僚……それぞれが抱える組織的欠陥をズバっと指摘するお2人。

 リスクコミュニケーションとは、例えば原子力事業者が地域住民や行政と情報を共有し、リスクに関するコミュニケーションを行うこと。原子力に関して「YESかNOか」「白か黒か」という回答だけを求めた結果、政治的な争いに終始してしまい大事な点(地域住民へのリスク)が看過されてしまったというのは、前号の「くわばたりえ×さかもと未明」の対談とも通じるところがあるように思います。極端と極端の戦いからは何も生まれませんしね。子育てにも種々の「リスク」があり、それをどれだけ自主的に取捨選択ができるのか。

 と、そんな現実的な流れから、宇宙レベルの話へと飛躍するのが「石川道子×泉ピン子『資源の分かち合い』ができれば、戦争もテロも不要になる!?」です。石川道子氏は国際月刊誌「シェア・インターナショナル」日本語版の編集を手掛ける、編集者/翻訳家。この2人の話がカオス、一周回ってもやっぱりカオスなのです。

 対談はピン子先生による「もうブランド物とか飽きちゃった」話から始まります。10年前に橋田壽賀子先生と行ったサハラ砂漠旅行で、満天の星空を眺め「自分のちっちゃさを痛感させられた」と話すピン子さん。胡散臭さのゴングが鳴ります。さらに昨年訪れた南米で見た「あの光り方は、普通じゃなかった」という「ルセロ」(星)に話が及ぶと、石川さんの“トンデモ”ギアがいきなりトップに。

 「最近はUFOがあちこちで見られるようになりました」「来ているのは主に金星と火星からのUFO」「『地球人が誤った道に進まないように自分たちの進んだ技術を分かち合って、手助けをしたい』というのが、UFOの兄弟たちの真意」など、宇宙人の代弁者として語る語る語る。

 石川さんの発行する「シェア・インターナショナル」は、地球が直面する問題のカギを、世界資源の分かち合いに求める雑誌とのこと。ココまで読んでもついていけない人は多々いらっしゃるかと思いますが、「全人類を兄弟姉妹として見、行動することを鼓舞し、導くために、世界教師『マイトレーヤ』と大悟された大師方の一団が、今世界に出てきておられるという情報を伝えています」とキました。ワオ。

 その後も、国際問題と宇宙人と宗教と謎のエネルギーの話が混然一体と繰り返され、さすがのピン子先生もタジタジのご様子。マイトレーヤが何を成し遂げたいのかはよくわかりませんでしたが、世俗の権化・泉ピン子の口を塞いだことだけは確かなようです。それだけでも大したものです。この雑誌の魅力とは、こういったすさまじいまでの針の振りきれ方なのだと痛感しました。
(西澤千央)

最終更新:2013/01/26 19:00
「婦人公論」
むしろどんな意図で石川さんとピン子を対談させたの?
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