ナニーやメイドがいても……

「母親」の理想化、母乳への執着……セレブが語る産後うつの実態

2012/10/27 17:00
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『フレンズ』のモニカ役でおなじみのコートニー・コッ
クスも経験者

 アメリカでは経産婦の13%が深刻な産後うつを発症すると報告されている。マタニティーブルーと同じように軽くあしらわれることが多いが深刻な病であり、放っておくと自殺の危険性も出てくる。

 メイドやベビーシッターを雇い、何の苦労もなく子育てをしているように見えるセレブたちの中にも、産後うつにかかる者がいる。ブルック・シールズとグウィネス・パルトローが産後うつをカミングアウトした時には、この病の認知度が一気に上がった。しかし、産後うつにかかるのは母親失格なのだと自分を責め、恥じることが多いため、オープンに語る女性はまだまだ少ない。今回は、世界中で産後うつに苦しむ女性たちを救いたいと自分の経験を語った「産後うつに悩んだセレブ」を紹介する。

■カーニー・ウィルソン

 ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの娘で、女性コーラスグループ「ウィルソン・フィリップス」として人気を博した歌手のカーニー・ウィルソン。超肥満に苦しんだ彼女は胃バイパス手術で大減量したことで知られているが、2005年4月22日に第一子を出産した後、産後うつに苦しめられたことを告白している。

 産後うつの主なサインは、悲しみ、脱力感、無力感、不眠、食欲不振。そして、体のあちらこちらが痛むという状態が挙げられる。人それぞれであるというが、カーニーは出産後、意味もなくただただ泣くという状態が続いたとのこと。カーニーは米「People」誌のインタビューで、自身の産後うつの経験をこう語っている。

「幸福、愛に圧倒されてしまい、逆に悲しみに満ちあふれ、恐怖心が湧いてくる。私はこの赤ん坊をちゃんと育てられるのか、もし失敗したらどうしようって、怖くて仕方なくって」
「赤ん坊を落っことしてしまったらどうしよう? 赤ん坊は100%、私を頼りにしている。その事実が、たまらなく怖かったの」

 カーニーは運動やビタミン剤、食生活を改善したことで、産後うつから抜け出せたとのこと。「運動や正しい食生活を送るようになり、気分がすごく楽になったの。でも、産後うつに苦しんでいる人が、みんな私と同じ方法で回復するするとは思っていないわ。私はすごくラッキーだと感じている。薬に頼ることも大切だと強調させて」と語っている。

■ケンドラ・ウィルキンソン

 元プレイメイトでリアリティ番組のスターとして人気を集めたケンドラ・ウィルキンソン。NFLインディアナポリス・コルツのアメフト選手ハンク・バスケットと結婚し、09年12月11日に第一子を出産したことで、宿敵のキム・カーダシアンに勝ったといわれたのだが、本人は大変な思いをしたと告白している。出産後、メディアの取材に応じたケンドラは「早く体重を戻したい」「早く体形を戻したい」としか語らなかったが、10年3月に受けた米「OK!」誌のインタビューで、こう明かした。

「出産し終わってから、何をするのも嫌になってしまって。髪をとかさなくなり、歯も磨かなくなり、シャワーさえも浴びなくなってしまったの。そんなある日、鏡に映った自分を見て、気分がド~ンと落ちてしまった。自分の姿を見て“ひどい!”って思ったのよ」
「ロサンゼルスできらびやかな生活を送っていたのに、今はインディアナポリスでこんなシケた生活を送っている。赤ちゃんが生まれ、幸せなはずなのに。実際に“今の私にとって、生きる目的なんて何もない”と言ったこともあったのよ」

 ケンドラはインディアナポリスの積雪や寒さに慣れるのにも時間がかかったことも、産後うつを悪化させた要因だと分析している。連日、カリフォルニアのビーチや海沿いを歩きたいとか涙したとのことで、超ネガティブ思考になっていたと赤裸々に語り、話題となった。

コートニー・コックス

 繰り返し流産をしてしまう習慣性流産(不育症)に苦しみ、長い不妊治療の末に体外受精で第一子を妊娠したコートニー・コックス。04年6月13日に長女ココを無事出産し、夫のデヴィッド・アークエットと共に家族3人、幸せな日々を送っていた。しかし出産から13カ月後、コートニーは米『USA Today』のインタビューで「重度の産後うつを患ったこと」を赤裸々に明かした。

「とっても大変な時期があったのよ。出産直後ではなくて、ココが6カ月になった頃にね」
「不眠に悩まされるようになって、心臓がバクバクして。そして、ものすごく落ち込むようになってしまったの。うつっぽい状態が続くから、医者に行って検査を受けたの。そしたら、ホルモンがすごいことになっていたのよ」
「自分がちっぽけな存在に思えてしまって、がけから飛び降りたくなるような自殺願望にも似た妙な気持ちになっていたわ」

 コートニーは医師から処方された薬を服用することで、身体的に楽になったとのこと。また、マリブの家の近くに住み、『フレンズ』で共演した大親友のジェニファー・アニストンや、産後うつの大先輩であるブルック・シールズからの親身なサポートにも助けられたという。重度の産後うつを経験したコートニーだが“リトル・アークエット”になる男の子を産みたいとも告白。しかしデヴィッドとは1年半を越える別居の末、申請している。

■マリー・オズモンド

 音楽一家に育ち、幼い頃からショービジネスの世界で育った、歌手のマリー・オズモンド。彼女は最初の夫と離婚し、別の男性と再婚・離婚した後、再び最初の夫と結婚し、5人の養子、3人の実子に恵まれた。子どもたちのことを「宝」だと言い、養子も実子も分け隔てなく育てるマリーは母性愛にあふれた女性だと見られているが、99年7月に40歳で第三子の実子を産んだ直後に産後うつを発症したことを明かしている。

 兄と司会を務めていたトーク番組の放送継続が決定したり、ロサンゼルスへの永住を決めたりと、エキサイティングな妊婦生活を送っていたマリー。最後の妊娠・出産になるだろうと思っていたこともあり、毎日を楽しんでいたという。しかし、出産直後から自身の変化に気づく。1人目、2人目を出産した後も軽くブルーになることはあったそうだが、確実に違ったという。医師はそれを察し「頑張るのはほどほどに」とアドバイスしたのだが、彼女は他人事のように聞き流していたそうだ。「何かが違うけど、私は大丈夫。出産してもすぐに体形を戻すし、仕事にも復帰する。引っ越しもテキパキするし、ビジネスの決断だって的確に下す」そう信じていたという。

 周囲には笑いながら大丈夫と言っていたが、1人になると大号泣。自分を追いつめた彼女は、ある日ベビーシッターにクレジットカードと小切手、赤ん坊を手渡し、「夫に電話して。私はここから消えるから」と言い、車を走らせた。死に場所を探したのだが見つからず、その夜はモーテルに泊まったとのこと。そこにいることを探し当てた実母が、「実は私も産後うつになったのよ。大丈夫。大丈夫」と励まし、彼女はようやく治療を受ける決心をしたのだった。

 マリーは産後うつの経験を、『Behind the Smile:My Journey Out of Postpartum Depression(微笑みの裏側:産後うつからの回復記)』というタイトルの本にまとめ、01年に出版。彼女を治療した医師も執筆に参加し、産後うつのバイブル本として大きな注目を集めた。

■ブライス・ダラス・ハワード

 映画監督のロン・ハワードを父に持つブライス・ダラス・ハワードは、エレガントで気品あふれる雰囲気が魅力の女優。5年の交際を経て結婚したセス・ガベルとの第一子を207年2月16日に出産しているが、壮絶な産後うつを経験したという。ブライスはグウィネス・パルトローが手掛けるニューズレター「GOOP」に、その時に経験を寄稿している。

「私にとって、授乳は出産よりも痛くてキツくてつらいものだったの」
「ラクテーション・コンサルタント(母乳育児援助団体)が助けの手を差し伸べてくれたのに、ダメだった。でも母乳育児をあきらめたくなくて、ギブアップするのを拒否したの。どうにかして母乳だけで息子を育てたかった。どうにかして粉ミルクを与えず、母乳だけで育てようと、そればっかり考えていたのよ」
「ほとんど眠らず、授乳しているか、搾乳しているかばかりだった。でも全然コツがつかめなくって……」
「そのうち、夫のドラマ撮影が始まり、夜遅くまで働いて、帰宅して……そんな彼を、私は玄関で激怒しながら迎えたの。毎晩、叫び、ののしり、ひどい言葉を吐き出したわ。私がこんなふうになるだなんて、彼は想像もしなかったでしょうね」

  異様なまでに授乳に執着したブライスは食事も取らなくなり、どんどんひどい状態になっていったとのこと。セスは怒り狂う彼女に対して「自分に何かできることはないか」と言い続け、どんなにひどく罵倒されても、すべてを受け入れたという。そんな彼と友人、そして家族のサポートを受け、ブライスはセラピーを受けるようになり、産後うつを克服したのだった。

 ほかにも、妊娠中は最高にハッピーだったのに、出産直後に奈落の底に落とされたような気分になってしまったというアマンダ・ピート、重度の産後うつに襲われ、夫と娘2人を殺害するという妄想を繰り返し見るようになったというリサ・リナ。アンジェリーナ・ジョリーも08年夏に双子を出産した後に産後うつになり、急に泣いたり笑ったりと、家族も大変な思いをしたのだと伝えられている。07年にバリカンで自分の髪を剃ったり、パパラッチに傘で襲いかかったブリトニー・スピアーズも、実は産後うつを悪化させてあのような奇行に走ってしまったという説がある。

 自ら命を絶つこともある深刻な病、産後うつ。適切な治療を受ければ劇的に楽になるので、周囲は理解を示し、医者にかかるよう勧めるのが大事だといわれている。

最終更新:2012/10/27 17:00
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