[女性誌速攻レビュー]「美ST」11月号

“でぶす”は楽しいからモテる!? 木嶋佳苗を意識した「美ST」の勘違い企画

2012/09/27 16:00
「美ST」2012年11月号/光文社

 「美ST」(光文社)11月号は、別冊付録があります。「美に効く名著100選」という16ページの冊子です。表紙には「今年の秋は読書こそ美容液。読んで“キレイ”を育てませんか?」と書かれています。なるほど、一時期「美ST」は、「美は内面から」と精神論推しをしていた時期がありましたが、ぶっちゃけ内面を輝かせるために何をしたらいいかわかりませんよね。今さら自分探しなんてしたくないので、できればすべてマニュアル化していただきたい(本末転倒?)。ということで、こういうブックガイドはとても便利です。

 この付録の表紙は中谷美紀。インテリジェンスを感じさせる女優ナンバーワンです。が、フタを開けてみたら、プライベートで読む本は気負わずに読める実用書や随筆が中心とのことで、紹介している5冊中3冊が『「女性の脳」からストレスを消す食事』(溝口徹著、三笠書房)てな具合の実用書で、残り2冊が谷崎潤一郎と花人・川瀬敏郎だったのでした。どっかの婆さんの庭の写真集とか、小さな国の詩集とかを期待してたヨ……。というかですね、この別冊全体として美容実用本の紹介が多すぎます! 『ほしのボディ。』(ほしのあき著、学研パブリッシング)とか、8割くらいそんなのなんです。これ“名著”なの、“読書”なの? 思わず“底辺高校の生徒がパチスロ攻略雑誌で読書感想文を書いた”というイタいニュースを思い出しちゃいました。読書の定義って難しいわ~。

<トピック>
◎モテの極意は“でぶす”が知っていた!
◎帰ってきた「最速マダム伝説」
◎特集 負けるもんか。45歳の壁

■本当は“でぶす”をバカにしてない?

 さて、本誌を見てみましょう。ページは順不同でご紹介します。巻末近くに「モテの極意は“でぶす”が知っていた!」という企画がありました。似たような企画が「Numero TOKYO」7・8月合併号(扶桑社)でも組まれていましたが、そこでは「モテぽちゃ、ふくよかさん、愛されLサイズ…解明! 東京ぽっちゃりブーム」というタイトルで、例として渡辺直美や森三中が登場していました。これはまあ、わかりやすいですよね。ぽっちゃり体型を個性として生かし、人気を得ている女性がいる、という話です。しかし、「美ST」の「モテの極意は“でぶす”が知っていた!」は、煽りすぎでは。でぶすが必ずしもモテるわけじゃないし、周囲で、「でぶすがモテモテ」という実感はありません。

 本当にどれだけモテるのか、男性たちの意見が掲載されているのですが、「ピュアで素朴ならでぶすだって可愛く見える」「特技があればでぶすもチャーミング」「見た目でなく、会話がでぶすじゃなければOK」「3分で終わる美人より3分で楽しくなるでぶす」と言いたい放題! 要するに、「でぶすが好き」なのではなく、「芸があればでぶすも可」という程度でしかないわけです。「デブ=楽しい」という、まんま女芸人を思い描いている先入観も浅はかの極み。お前らを楽しませるために生きてるんじゃねーっての。それならいっそ、「痩せる努力をしてください」と言われた方が納得いくわ!

 さらに、驚くべきことに、木嶋佳苗ウォッチャーとして知られる北原みのりさんがにこやかに登場し、「“でぶす”のモテルール5」なるものを紹介していました。木嶋佳苗の名前は出してないものの、見出しに「『毒婦。』の著者 北原みのりさんは見た!」と付いているので、でぶすと被告人を関連づけていることは明白。いわく「男性は『○○までに○○をして』と言われると、本能でやらなければならないと思ってしまう生き物。具体的な要求は優しく、でもハッキリ伝えると男を動かせるんです」だって。被告も被害者も茶化しまくりです。これにはドン引きっす。

■晩婚晩産でキレイでいるのは無理と判明

 今号は、ドカンとくる企画がない代わりに、細かく気になるところを丁寧に拾っている感があります。その1つが、「帰ってきた『最速マダム伝説』」という企画。「最速マダム」とは、20代前半で結婚、出産、40代にはすべてが一段落したマダムを指すのだそうです。リードには「『最速マダム』——それは美ST世代にとって特権的な響きを持つ憧れの言葉でした」と書かれています。早くお嫁に行くことがステイタスだった時代があったんだなあと、バブル期に思いを馳せつつ中身を見てみますと、登場している5人のマダムが5人とも、20代30代は子育てに追われ、美容の時間がとれなかった、独身の友人がうらやましかったといったことを語っていました。

 今となっては確実に「40代で大きな子どもがいるなんて信じられない、若い、キレイ」なんて褒めそやされる最速マダムたち。しかし、子どもはいきなり大きくなるわけではありませんから、過去には鏡を見るのも忘れるような“滅私奉子”の時期があったわけです。独身時代を謳歌し、晩婚晩産で40代になってヒーヒー言うか、どっちが先かの違いであって、結局は帳尻が合っているわけですね。ただし、早くに産んだ女性は多少ケアを怠っても若さでカバーできていたことは事実。老化が始まってから産んだ場合、ただでさえ下り坂なんですから、現状を維持するのだって相当な無理難題です。生き方が違うすべての女性を同列で「キレイ」だの「老けてる」だの比較することが間違っている。もういっそ美容は最速マダムと未婚・未産女性の特権ということにして、30代で産んだ世代は、あと10~15年くらい堂々と髪を振り乱しておいていいんじゃないでしょうか。還暦で追いつけばいいっすよ、ね。

■「40%以上は尿漏れ経験あり」ってなにげに重い

 先月号では、第2特集で「賢い45歳は更年期を恐れない」という企画がありましたが、今月号の特集は「負けるもんか。45歳の壁」です。トビラは、ベルリンの壁が崩壊した時の写真をバックに、「美ST」オリジナルキャラの子宮を象ったホルモンヌちゃんが壁を越えようとしています。ベルリンの壁と更年期を結びつける発想スゴイ。

 内容としては、「45歳になると女性にもヒゲが生えてくる」「45歳を過ぎると歯茎が急速に老化する」「45歳女性の40%以上は尿漏れ経験あり」「女性が老眼鏡を購入する平均年齢は45歳」など、肌や体型に気を取られて意外と見過ごされそうな45歳の壁が具体的に示されていて興味深かったです。早見優、新田恵利、中村あゆみといったビミョ~なラインのタレントが登場しているのも見どころ。中村あゆみの美容法の1つは「鏡をのぞくたびに『変わったら許さない。わかっているでしょうね』とすごむ(笑)」だって。あの声ですごんだら迫力あるでしょうね。……といったコネタが豊富な今号でした。
(亀井百合子)

最終更新:2012/09/28 10:40
『美ST』
まずは美魔女が“でぶす”になってみてよ!
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