悪性腫瘍はなかった!?

自殺したトニー・スコットの“決定的な瞬間”をメディアに売り込む人々

2012/08/22 16:00
TonyScott.jpg
トニー(左)とリドリー(右)のスコット兄弟

 トム・クルーズを一躍スターダムに押し上げたアクション映画『トップガン』(1986)、ジョン・トラボルタとデンゼル・ワシントン主演のハード・アクション映画『サブウェイ123 激突』(09)、実際に起こった貨物列車暴走事故をデンゼル・ワシントン主演で映画化した『アンストッパブル』(10)など、数多くのアクション大作映画を手掛けてきたトニー・スコット監督が、19日、ロサンゼルスの橋から身投げして自殺した。享年68歳だった。イギリス出身のトニーが最期の場所として選んだのは、アクション映画のロケ地として知られるヴィンセント・トーマス・ブリッジ。真っ昼間だっため、ハーバークルーズ船の乗客やボートに乗っていた多くの人々が一部始終を目撃しており、決定的瞬間も撮影されているという。その写真や動画を、タブロイドやメディアに売り込んでいる者もおり、名監督の死を取り巻く状況が騒がしくなっている。

 名作『L.A.大捜査線/狼たちの街』(85)で、ウィリアム・ピーターセン演じる刑事が飛び降りたことで世界的に知られるようになったヴィンセント・トーマス・ブリッジは、近年でも『チャーリーズ・エンジェル』(00)やニコラス・ケイジ主演のカーアクション映画『60セカンズ』(00)に登場。トニー自身も、橋の下の鉄道操車場で『アンストッパブル』の撮影を行ったことがある。サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ(金門橋)のように自殺の名所ではないが、水面まで60メートルあるため、落ちたらひとたまりもない。

 ヴィンセント・トーマス・ブリッジはハーバークルーズ船やボートが行きかっており、トニーは19日の午後12時35分頃に橋から飛び降りたため、その一部始終を船やボートに乗っていた多くの人々に目撃されたのである。

 米ゴシップ芸能サイト「TMZ」によると、橋のフェンスをよじ登り始めた男性の存在に気がついた目撃者らは、携帯電話やビデオカメラなどを使い、身投げ自殺の一部始終を撮影。この手の飛び込み自殺動画はこれまでにも動画共有サイトなどにアップされており、目撃者たちが撮影することは珍しくはない。しかし、今回の撮影者たちは、飛び込んだのが有名な監督であると知ったため、タブロイドやメディアに「買わないか」と持ちかけているのだという。なお、身投げの様子は監視カメラにも収められているとのことだ。

 「TMZ」は売り込まれた動画を見たが、モラルに反すると考えたのか購入はしなかったとのこと。大手メディアが金銭と引き換えに動画を手に入れることも考えにくい。購入するとしたら、ホイットニー・ヒューストンの遺体など、ショッキングな写真を掲載することで知られるタブロイド紙「ナショナル・エンクワイアラー」あたりではないかと見られている。

 トニーの遺体だが、同日の午後3時頃に捜査を続けていたロサンゼルス港湾警察が発見し収容。橋の近くに駐車してあったトニーのトヨタ「プリウス」の車内には連絡先が書かれたメモが置かれており、彼の事務所には遺書があったとのこと。なお、遺族の意向により遺書は公開されていない。

 当初、トニーは悪性の脳腫瘍と診断され、手術が不可能であることを苦に自ら命を絶ったようだと伝えられたが、妻は、そんな診断などされていないと否定。健康に問題はなく、病気を苦に自殺することはありえないと語っている。司法解剖はまだ終了していないが、「TMZ」は「解剖では、悪性の脳腫瘍など見つからなかった」という関係者の話を入手している。

 トニーの実兄で、『グラディエーター』(00)などで知られるリドリー・スコット監督は、弟の死の知らせを聞き、イギリスからロサンゼルスに駆けつけた。2人は、スコット・フリー・プロダクションという制作会社を創設し、プロデューサーとしても活躍。『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル』『グッド・ワイフ』など人気ドラマの製作総指揮を務めた。9月から放送される医療ミステリードラマ『Coma』も共同で制作していた。21日にロサンゼルスに到着したリドニリーは、憔悴しきった表情を見せていた。

 仕事に対して意欲的に取り組んできたトニー。彼の突然の死は、ハリウッドに大きな衝撃を与えている。『トップガン』で組んだトム・クルーズは、「彼はクリエイティブで空想的な人だった」「トニーは自分にとってとても大切な友人。本当に本当に悲しい。彼の家族に心よりお悔やみを申し上げたい」とコメント。なお、トムは『トップガン』続編映画に出演することが決定しているが、トニーの死により撮影が延期になる可能性が出てきたとウワサされている。

 何がトニーを死へ急がせたのか。名監督の早すぎる死を惜しむ声は、尽きることなく広がっている。

最終更新:2012/08/22 16:29
『命は誰のものか』
死に尊厳を……
アクセスランキング