[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

ファンタ片手に子どもにキレる……「だらしない感じのデブ」が醸す不幸オーラ

2012/07/22 21:00
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(C)安彦麻理絵

 暑い。ここ最近で、ものすごく暑くなってきた。すぐに汗で顔がグダグダになるので、化粧なんてする気にもならない。しかも、右目の瞼に、また、ものもらい。5月から頻繁に、腫れたり治まったりの繰り返しで困っている。今月頭にも眼科に行ったのだが、またしつこく再診。前回はペテン師みたいな顔の男の医者にみてもらったのだが、今回は50がらみの女性のお医者さんにみてもらった。彼女は私の顔を見るなり、「ちゃんと眠って疲れとってます?」と言ってきた。「ストレスもねぇ、原因のひとつだから~」という、さりげない言葉に、私は思わず「実はうち、1歳と2歳と4歳の子どもがいて……」と、ポロリと言ったら、「あなた!! それは疲れるわぁ~、大変よぉ、40歳すぎてそんな小さい子どもの面倒みてたら~~!!」と、激しく同情された。私は医者にそう言われて……ただただ、ひたすらうれしかった。

 そうですよねぇ、40すぎて、こんな小さいガキ共の相手してたら、誰だってヘトヘトになりますよねぇ、って、心の中で激しく頷いていた。私、ここ最近はずうーっと、「大変ですねぇ」って、人から同情されたかったのだ。それが今日、眼科で診察受けて、つくづくわかった。

 その後、そのまま近所の婦人科へ向かった。実はここ最近の私は「生理不順」なのであった。こんな事は今までなかった。離婚しようが何しようが、私の子宮は元気そうだった。が。それが、ここ最近はどうもおかしい。目のものもらいと一緒で、やっぱりそれも5月くらいから。なんかしらんが、生理が隔週でやってくるのである。ともすりゃ1週間おきとか。まぁ、年齢的にも、いよいよババァの域にさしかかってるわけだし、私の中で、何かが狂い始めてもおかしくはない。年上の友人に相談したら「めんどくさがらずに、婦人科行ってみたほうがいいよ」と言われ、さっそく足を運んでみたわけだが。診察室で、70代後半くらいに見える女医に、「んまぁ~~、あなた、その年齢で3人も!! そんな小さいお子さんの世話は大変よぉ~~~!!」と、いきなり素っ頓狂な声を出された。そして、ここでもまた、激しく同情の嵐を受けた。それだけで……なぜか私は、婦人科に来たかいがあったような気がした。同情してもらった事でホッとして、生理不順が治ってしまいそうな気がした。とりあえず「血液検査でホルモンを調べてみましょう」という事になり、婦人科系の症状に効く漢方薬を出してもらった。……午前中で医者を2件ハシゴ。「診察を受けた」というよりも、なんだか「年上の女に、優しくしてもらって帰ってきた」という感じだった。

 ところで先日の日曜日。子どもらを連れて、王子駅前の飛鳥山公園に行ってきた。ここは家族連れの多い場所である。天気も良かったので、色んな親子が遊具で遊んだり、弁当を食ったりしている。ここに来る親子は、吉祥寺の井の頭公園にいるような親子とは、ちょっとタイプが違う。生活感に満ちあふれてるというか。井の頭公園に来るお母さん達は「nina’s」(祥伝社)とか読んでそうだが、飛鳥山公園のお母さん達は「たまごクラブ」とか「ひよこクラブ」(ともにベネッセコーポレーション)を読んでそうな、そんな感じである。そこで私は、久々になんだかイヤ~~なものを見た。休憩所のそばで、走り去る新幹線などを眺めて郷愁にかられていたら、「ったく出すんじゃねぇよ!!」と、小さいながらも、激しく怒気を含んだ声が聞こえてきた。心臓がドキっとした。

 それは、ベビーカーに座る2歳くらいの子どもに、やきそばを与えている母親の声だった。30歳くらいの女だろうか。「ほらまたもう!! 出すんじゃねぇってんだろ!!」子どもはあまり、やきそばが食べたくないらしく、何度もベェ~~と出してしまう。そのたびに、ブチ切れてる母親がイライラした声で怒鳴るのだ。……まぁ、キレたくなる気持ちは私にもよくわかる。疲れてる時にそんな事をされると、本当に腹がたつもんである……でもなぁ。その女の「出すんじゃねぇよ!!」は、単純に「口が悪い」で済まされるようなノリではなかった。場所が自宅だったら、明らかに子どもを殴りつけてそうな口ぶりだった。

 そして、何がイヤってその女、体型が「だらしのない感じのデブ」だったのである。地味に髪をひっつめて、化粧っ気もない、オシャレになんて興味のなさそうなデブ。醸し出すオーラが、なんだか「ドロっと黒ずんでて、まがまがしい」のだ。小心者なようでいて、目つきがなんだかふてぶてしい所に、それを感じる。

 そして、手にはファンタの缶。明らかに「お菓子だのなんだの、そういうもんばっか食って、だらしなく太った」みたいな、そんな風情……きっと家の中も、もの凄く散らかってるんだろうな……ドンキ……百均……そんな光景が透けて見えてきて、私の気分はどんどん重苦しくなっていった。「まったく幸せそうに見えない女」しかもそれが「デブ」だったりすると、より不幸をリアルに感じるというか、醸し出す臭気もハンパなくキョーレツである。あの女を輪切りにしたらきっと、「不満」と「あらゆる事がめんどくさい」という、そんな感情しか出てこなそうな気がした。そして。「私だって、そんなふうになりかねないんだ」と思ったら、心底ゾッとした。なんだか毎日、くたびれきってイラついてる自分とこの女は「紙一重」な気がしてしまったのだ。

 帰宅後。缶ビールを飲みながら、今日出会ったこの女の事を、私は夫に話した。話してるうちに、なんだかわけもわからず泣けてきた。弱り目に祟り目。……どうやらこの女の「相当キョーレツな毒気」に、見事にヤられたようであった。

最終更新:2019/05/21 16:28
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