[連載]マンガ・日本メイ作劇場第23回

セックス=死亡フラグ、耽美な世界で少女たちを魅了した『マリオネット』

『マリオネット』(愛田真夕美、白泉
社)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 耽美な世界観が好きな女は結構いる。偶像としての人気は、元気にお外を駆け回ってるキャラよりも断然高いはずだ。戦隊ものでも、女子の一番人気は元気はつらつリーダー格の赤よりも、クールな青だそうだ。

 それはなぜか。元気はつらつなヒーローが自分に欲情してきた場合と、耽美主義者の美少年が自分に欲情してきた場合を比べて想像してみよう。元気はつらつは、「あー、なんか遊んでそう」「体も息子もお元気なのですね」という気がする。一方で耽美系が自分に欲情してきたら、「よっぽど私のことが好きなのかしら」という気がする。普段が冷静に美を愛でていそうなキャラクターだから、よほどのことがない限り欲情しないような気がするのである。黒髪ストレートヘアの色白の女が全員処女のような気がするのと同じ理屈である。

 『マリオネット』は、この“耽美”と“インモラル”を上手に使った少女マンガだ。主人公の超美少年ダニエルくんは、19世紀(たぶん)フランスの大貴族様である。彼が7年後の22歳になる時に相続する莫大な遺産を目当てに、悪い人が次々とやってきて、セックスしたり死んだりする。ダニエルくんは「こいつの行く先々で不吉なことが起こる」と言われている、なんだか不幸な感じの少年である。

 不吉なことが起こるのは、ダニエルくんを手玉にとろうとした悪者が、彼の淡々とした対応にしてやられて勝手に自滅するからである。権謀うずまく世界で、「今度は誰が悪者で、ダニエルくんはどんな目に遭うのだろう」と読者はハラハラしながら物語を読み進めるだろう。しかしひとつ安心できることがある。登場したキャラが悪者かどうかは、彼らがセックスしてるかどうかで判断できるのである。

 だいたい、悪者風味のキャラは『キャンディ・キャンディ』(水木杏子、いがらしゆみこ、講談社)のイライザ並みな悪者顔なのですぐにわかるのだが、もし彼らがセックスをしていたら、ホンモノの悪者である。たいてい、悪だくみはセックスの最中に行われる。そして必ず話中で死亡する。

 もしも登場したキャラが悪者顔をしているのにセックスをしていなかったら、それは悪者としては小物である。最後まで生き残れる。これは非常にわかりやすい区分である。悪者のセックス=死亡フラグ。

 しかし、ただ1人の例外がダニエルくんだ。彼はまた行く先々で女を食い散らかすのだ。そしてたいてい相手は死んでしまう。セックスは、ダニエルくんにのみ与えられた特権なのである。やってることは野球選手なら2軍落ちするくらいの乱行でも、退廃的でクールだから何となく許されるのである。もしも『君に届け』(椎名軽穂、集英社)の“さわやか”風早くんが女を食い散らかしてたら、ものすごく嫌悪感たっぷりの悪者風味になるはずである。なぜかって元気はつらつくんだから。少女マンガでは、退廃的でクールな男しか奔放なセックスが許されない風潮がある。

 だけど、このマンガが連載されていた80年代は、まだまだ女のセックス解禁にはほど遠かった。どこかに70年代の風潮であった「セックスは重大な決断をもって厳かにするもの」「女が性欲なんて、考えちゃダメ」というムードがいまだ漂っていたのだ。解禁になるのは90年代に入って、レディースコミックが市場を広げるようになってから。このマンガは、夜明け前の薄明かりの中でエロに足を踏み入れつつも、「解禁してごめん」という控えめな心意気がうかがえるのである。

 と、まあ耽美なお話であるが、このマンガにミステリアスな風味を加えている要素がある。もちろん悪者がいたす淫靡なセックスもそうだけど、やたら謎の毒薬やら薬やらが登場するのだ。これが結構便利で、狙った相手を失明させたり、洗脳したり、自我をなくさせたり、割と思いのままである。思いのままといえば、鳶を思いのまま操る話があって、伏線が見事に回収されていて一瞬感動するのだが、よく考えると鳶の習性をまったくもって無視したオチに。

 深く根拠や整合性を求めないのが、このマンガの楽しみ方のコツであります。

■メイ作判定
迷作:名作=5:5

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和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

ダニエルくんも結構なワルですぜ…へへっ

しぃちゃん

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