[連載]海外ドラマの向こうガワ

イジメ・自殺が深刻化するアメリカで支持された、『プリティ・リトル・ライアーズ』

2012/04/29 16:00
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『プリティ・リトル・ライアーズ
<ファースト・シーズン> コン
プリート・ボックス』(ワーナー
・ホーム・ビデオ)

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 『ビバリーヒルズ高校/青春白書』以来、アメリカの高校生を主人公としたメロドラマは、当たれば世界的な大ヒット間違いなしと言われている。そのため、最近のティーンドラマは昼メロ顔負けの刺激的でドラマチックな作品が多い。『The OC』『ゴシップ・ガールズ』はもちろんのこと、『ヴァンパイア・ダイアリー』のようなSFファンタジーにもメロドラマの要素が含まれているほど。もはや、メロドラマはオバサンたちだけのものではなく、ティーンの世界でも普通に受け入れられているのである。

 とはいえ暴走しやすいティーンが主役のメロドラマは、少しでも度が過ぎると世間から批判される。『ビバヒル』でティーンの妊娠・出産が描かれた時、『The OC』でミーシャ・バートン演じるヒロインがハメを外した時、『ゴシップ・ガールズ』で薬物乱用、飲酒に3Pなどが描かれた時は、PTA世代の逆鱗に触れ問題となった。だが、そんな風当たりをものともせず、その内容は年を追うごろに過激になってきている。それが、等身大のティーンを描いた結果だからだろう。

 そう、現実的にアメリカではティーン向けメロドラマで描かれている過激な内容が、現実に起こっているのである。最近では学校でのいじめ問題、それによる自殺などが深刻化しているとクローズアップされているが、ティーンにとって学校生活は面白おかしいことばかりではなく、大人社会顔負けのウソにまみれたシビアな世界なのだ。

 2010年6月、新感覚のティーン向けメロドラマの放送がスタートした。大人から批判されるのではなく、大人もファン層に取り入れようと狙った、深く、濃いストーリーが魅力の作品。ティーン版『デスパレートな妻たち』と呼ばれている、『プリティ・リトル・ライアーズ』である。

 物語の主人公は、ペンシルベニア州の高級住宅街ローズウッドの高校に通う美少女4人。4人には、かつてアリソンという友人がおり、5人組みとして仲良くしていた。しかし、みんなで酒を飲んでハメを外したある晩、アリソンは忽然と消えてしまう。残された4人も疎遠になってしまうのだが、その夜から1年後、アリソンらしき「A」という人物から携帯電話に文字メッセージが入り始めるようになり、4人は恐怖のどん底に突き落とされる。実はアリソンは意地悪でゴシップ好きなグループのリーダー格であり、4人は彼女の扱いに苦労していたのだ。かつてアリソンがそうだったように、「A」は彼女たちの秘密をがっちりと握っており、暴露されては困る4人は精神的に追い詰められていく。なぜなら、彼女たちの秘密は決して口外できるようなものではないひどいものだから。

 アリアは高校教師と肉体関係を結んでおり、元デブだったハンナは食べられないストレスを埋めるかのように万引きをし続けて母親に尻拭いをしてもらう。優等生のスペンサーはすべてにおいて完璧な姉の影に隠れがちだが、姉の婚約者に激しい恋心を抱き無意識的にモーションをかけ、エミリーは近所に越してきた女子高生と大麻を吸いレズビアンセックスを経験してしまう。アリソンの遺体が発見されても「A」からのメッセージは送られ続け、4人は目に見えない敵を相手に結束するようになる。

 日本では「女の子は嘘と秘密でできている」というかわいらしいキャッチフレーズがついているが、アメリカのキャッチフレーズは「可愛い顔して醜い嘘をつく女の子を、決して信用してはいけない」という、ドラマの内容をストレートに表現した文になっている。16歳という年齢ならば、誰でも持っている秘密と嘘。だが、物語が進むにつれ、秘密とウソを持っているのは、何も女子高生たちだけではないということが見えてくる。メロドラマの定番である不倫だけでなく、子育ては苦手だが自分の分身である娘のイメージを守るためなら何でもする母親など、親世代も秘密とウソと裏切りでドロドロになっているのだ。

 あまりにもスキャンダラスな内容だが、嫌味なく見られるのは女子高生たちの妙に落ち着いた雰囲気があるからだろう。それもそのはず。メインキャラクターである16歳の女子高生役を演じている4人は、全員子ども時代から役者として活動している20代の女優たちなのだ。自分の演じる役を十分に理解し、監督やプロデューサーの指示にもきちんと応える、安定した演技を披露できる彼女たちだからこそ、突飛な展開も純粋にスリルとして捉えることができるのだ。彼女たちの服装や髪型、メイクがかっちりとしているのも、安心して見られる一因かもしれない。

 なお、アリソン役だけ、放送開始当時はまだ14歳だったサーシャ・ピーターズが演じている。ローティーンの憎たらしいトゲトゲした話し方や、見る者に末恐ろしい印象を与えるのには、やはり実年齢も同じである女優が必要だったのだろう。サーシャも子役出身であり、演技力は申し分ない。

 また、このドラマには原作がある。2010年に、『ハリーポッター』『トワイライト』シリーズをおさえて、若者向け小説部門のベストセラートップに輝いたサラ・シェパード著『Pretty Little Liars』である。近年、人気小説シリーズをドラマ化し、成功を収めるケースが増えているが、このドラマも例にもれす、高視聴率をキープ。アメリカで3月末に放送されたシーズン2のファイナル・エピソード放送中は64万5,000人が番組に関するツイートをアップし大きな話題となった。なんと、1分間に3万2,000人がツイートしたことになる計算で、Twitterの記録を塗り替えたと伝えられている。

 ドラマを放送しているABCファミリーは、「ディズニー=ABCテレビジョン・グループ」の子会社「ABCファミリー・ワールドワイド」が運営するテレビ局で、約9,800万世帯で視聴されている。10代の娘たちの妊娠・出産を描いた『The Secret Life of the American Teenager』や、出産直後入れ替り全く異なる環境で育った娘たちが家族ぐるみで交流を持つようになり『Switched at Birth』など、なかなかショッキングなドラマを放送しているのだ。

 『プリティ・リトル・ライアーズ』に登場する、それぞれのメロドラマチックな家庭。それは、新しいアメリカン・ファミリーの姿なのかもしれない。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『プリティ・リトル・ライアーズ <ファースト・シーズン> コンプリート・ボックス』

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最終更新:2012/04/29 16:00
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