【連載】探偵はみた!

「自分の子どもではない」と、探偵にDNA検査を依頼した夫の“勘”

2012/03/30 16:00
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Photo by vastateparksstaff from Flickr

 嫉妬、恨み、欲望、恐怖。探偵事務所を訪れる人間の多くがその感情に突き動かされているという。多くの女性の依頼を受けてきたべテラン探偵の鈴野氏が、現代の「女の暗部」を語る。

 最近は、DV(ドメスティックバイオレンス)の相談が増えた。DVの相談は、圧倒的に暴力を振るう側、つまり加害者からの相談が多い。なぜなら逃げた相手がどこへ行ったかわからなくなるからだ。最近は、加害者が男でなく女の場合も多い。

 ある地方の名士A氏から秘密の依頼があった。毎日のように奥さんが家で暴れているので手がつけられない。家の中で物を投げたり壊したり、包丁を持って暴れたり、A氏は一時的にホテルに避難したこともあったとかで、その暴力行為について語るときりがないほどだ。その上、奥さんには挙動不審なことが多いということだった。ふらりと出かけて3~4時間連絡が取れなくなる。精神的に不安定だから、と大目に見ていたがどうやらそればかりではないと気付き始めたそうだ。男の本能的な勘とでもいうのだろうか。

 A氏曰く、今いる子ども3人のうち、誰かが自分の子どもじゃないかもしれないという。 娘なのか息子なのかはわからないが、どうも違う気がするのだそうだ。つまり我々は、秘密裏にDNA鑑定の準備をしなければならないということだ。DNA検査をするためには、子どもたちの検体を集めなければならない。これには、探偵稼業の長い経験の中でも非常に苦労させられた。

 まず、A氏の家の前で張り込んでゴミを調べる。A家のゴミ集積場は路地から奥まったところにあり、集積箱にゴミを入れてしまうと、どの家のゴミかわからなくなってしまう。張り込みをして、奥さんが家のゴミを出したところを見計らっていく。誰かに見つかってしまうと不審者だと通報されかねないので、ゴミをさっと車の中に運び込む。そこで中身を全部調べて、検体になるものを探していくという方法を取った。しかしどうもこのやり方は効率的ではない。ハズレが多すぎる。そこで我々は、まず長女の通学路に張り付いた。バスに乗る長女の後ろに立ち、さも親切そうに「あ、ゴミがついているよ」といって、1本毛を引っこ抜いたりした。これは1度しかできない技だ。ところが、ここまで危険を侵したにもかかわらず、この抜いた毛には毛根がなかった。毛根がついてないとDNA検査はできない。またそれから何日も尾行して、奥さんと長女がラーメン屋に行くのがわかった。

 すぐに相棒に2人を尾行させ、同じラーメン屋に入らせた。2人が食べ終わって出て行き、店員さんがどんぶりを下げるわずかな隙に、相棒に割り箸を集めさせ、ここからDNA検体を取ることに成功した。残るは、真ん中と末っ子。3カ月張り込みをして、真ん中の子と末っ子が遊び場にしている大きな公園に目星をつけた。遊んでいる子どもたちは、コンビニでガリガリ君アイスを買った。やった! これを採取するしかない。じっと食べ終わるのを待ち、その棒を急いで拾った。これは、うまくいった。やっと3人分の検体ができたのでアメリカにDNA検査を依頼した。ところが、このガリガリ君の棒には他の人のDNAが混じってしまっているという。本来は、DNA鑑定の検体はマスクと手袋して取らなければいけない。DNA鑑定では、他人のDNAを引き算できる。たぶん採取のときに私か相棒のDNAが混じってしまったのだと予測した。急いで私と相棒の検体を送り、DNAをマイナスしてもらった。

 結果はやはりクロ。真ん中の子がA氏の息子ではなかった。その後、裁判に持ち込んだそうだが奥さんは裁判でも自分の非は認めなかったそうだ。父親が違うといっても1番目だったらまだ言い逃れが出来る。二番目が他人の子ということは、結婚生活がスタートしてからの不貞だ。だから離婚事由に当たる。けれども海外に送って秘密裏に調べたDNA鑑定は裁判では証拠にはならない。その後、A氏がちゃんと離婚できたかは定かでないが、DNA鑑定を探偵に依頼してきたくらいだから推して知るべしだ。男の勘も捨てたものではない。
(カシハラ@姐御)

取材協力:オフィスコロッサス

『DNA鑑定は“嘘”をつく-科学捜査員の事件ファイル-』

その後のほうが気になるってば!

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最終更新:2019/05/17 20:59
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