[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

派手さはなくても流れる涙に「体温」を感じさせる、尾野真千子の演技

2012/03/11 21:00
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(C)安彦麻理絵

 赤子の鼻水、ひどすぎ。赤ん坊は鼻がつまると呼吸ができないもんだから大変なのである。夜も鼻が苦しくて寝付きが悪く、喉に落ちてきた鼻水で咳き込んで、ムセてゲロ。こんな事がもう1週間続いている。当然、一緒に寝てるこっちも寝不足。薬を飲んでても全然効かないし。大丈夫なんだろうか。今日はずーっと冷たい雨が降ってて、すごく寒い。早く春になってほしい。

 ところで、NHKの朝ドラ『カーネーション』。主演の尾野真千子が、ついに夏木マリとバトンタッチしてしまった。私、朝ドラって今までそんなに真面目に見たことがなかったのだが、今回の『カーネーション』は気が付いたら、なぜかちゃんと見ていた。毎日欠かさず、というわけにもいかなかったが、わりと毎日見ていた。こんなことは本当に珍しい。で、見るたびに感動して泣いてた。

 それって、なんかスゴくないですか? 相当な確率で感動泣き。尾野真千子最終回なんて、朝見て、たまらなくなって、また昼も見てるんだもの。で、そのつど感動して泣いてた。どういうことよ、一体。尾野真千子って、このドラマで初めて知った女優さんだったけど、うーん、不思議な女優さんだ。なんか「いかにも女優」的な派手さゼロ。顔もえらく地味だし。朝ドラのヒロインさんって、なんかみんな「カワイ~~」って感じの人がなるもんだと思ってたから、最初は「……??」って思っていたのだが、見ていくうちに「なんか嘘くさくなくて、いいな、この人」と、気が付けば目が離せない存在になっていたのであった。そして、見るたびに感動、目頭を熱くする毎日。尾野真千子(てゆうか「糸子」)が結婚した時の回なんて、私、号泣だったし。祝言の最中に色々思いを馳せた糸子が、ツツーと涙を流すシーンがあったのだけど、私、その涙に、尾野真千子の「体温」を感じた。今まで色んな映画やドラマで「泣くシーン」は数限りなく見てきたけど、流れるその涙に体温を感じたなんて初めてだ。

 ドラマの後半では、実年齢よりも相当年上の「オバさんになった糸子」を演じてたけど、尾野真千子だとそんな無茶ぶりも許せるんだからすごい。「新山千春のお母さん役って一体どうなのよ??」と当初は思ってたのだが、ドラマを見ていくうちに、それもだんだん気にならなくなってしまうのであった。そんな「尾野真千子マジック」のおかげで、麻生祐未の「ババァ芝居」も、なんだか、『サラリーマンNEO』(NHK)のコントみたいだったが、「ま、あんまりうるさい事言うのも何だしねぇ」と、微笑ましい気持ちで見れた。(濱田マリなど、他の役者陣も同様)

 そしてついに夏木マリとバトンタッチ……。尾野真千子のラストシーン「窓際で遠くを見つめながら、今までと、そしてこれからの人生に思いを馳せる糸子」……そんなシーンにまたしても目頭が熱くなって、家族に見つからないように、そっとティッシュで涙を拭った私……(って、そこまで泣くか)。そして「ああ、もうこれからは尾野真千子じゃないんだ!!」と、胸をかきむしられるような気持ちにひたって(だからそこまで思うか)。……そして。

 舞台はついに1985年。朝もやの中、岸和田商店街を赤い服を着た女が歩いてくる……。誰だろうこの女、真っ赤なペディキュアにヘップサンダル、茶髪にどす赤い口紅、まるで三原じゅん子みたいな女……と、思ってたらそれは5歳だった糸子の孫が、15歳になった姿だった。仰天。で、寝ている72歳の糸子・夏木マリを起こして、物語は始まったのであった……フツーの可愛い子役が10年の歳月を経て、三原じゅん子と化していた、その、物語の強烈な展開ぶりに、数分前までの感傷的な気持ちが、一気に引っくり返されたような気分になった。そして、「……こんな展開、全く考えてもみなかったから新鮮!!」と、逆に感心してしまい、「夏木マリでも、なんかおもしろそうかな??」という気持ちになってしまったんだから、すごいですねぇ。すごい脚本。

 これから最終回までどんなふうになってくんだろう、と期待を込めつつ……1985年、自分は16歳だったなぁ、なんて、ちょっとしんみり思った。そういえば、あの頃の私、YMOとかが好きで、毎月「宝島」なんか読んでる「不思議ちゃん」になりたい田舎者だった……「早く東京に行きたい!!」って、まるで妖怪人間みたいだけどとにかく日々、それしか考えてなくて、東京に行ったら絶対「何か」やるんだ!! なんて鼻息荒くして「普通の人生」なんて最悪だし!! とか思ってた、あの頃……。あれから26年たって、私……赤ん坊のハナ風邪に、頭を悩ます日々を送ってます。

最終更新:2019/05/21 16:29
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