『パリ愛してるぜ~』刊行記念インタビュー

フランス人との恋は一筋縄ではいかない! 「オシャレ」だけじゃないパリの現実

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『パリ愛してるぜ~』(飛鳥新社)

 パリ。それはオシャレな男女がカフェで愛を囁き合う街。あわよくば私もそこでイケてるパリジャンに見初められて、中村江里子のようなセレブ婚をしたい……。そんな願望を抱いているかどうかはわからないが、パリに憧れる女性は多い。外務省の統計によると、在フランス邦人数(永住者および長期滞在者)は、男性1万1,363人に対し、女性は1万9,584人と女性が多い(平成22年)。総じて欧州は在留邦人女性が多いが、中でも特に割合が高く、彼の国が女性に人気があることは確かだ。しかし、マンガ『パリ愛してるぜ~』(飛鳥新社)には、オシャレなパリは出てこない。真田広之似の謎のホームレスに金をせびられ、エレベーターのないアパルトマンを7階まで上り下り、オタクイベントには日本のアニメのコスプレーヤーがわさわさ……。そんな非オシャレなパリばかり。作者のじゃんぽ~る西さんに、女性が憧れるフランスの現実を聞いた。

――じゃんぽ~るさんはマンガを学ぶためにパリに1年間滞在したわけですが、はじめはどんなイメージを持っていたんですか。

じゃんぽ~る西氏(以下、じゃんぽ~る) 僕は特にフランスに憧れがあったわけではなく、イギリスに行くのもいいなと思ってたくらいでした。この本を出版したあと、女性からしか反響がなくて「日本の女性にここまで人気があるのか」と逆に知りました。

――どういった反響があったんですか。

じゃんぽ~る バカンスをしっかりとるフランス人の気楽な働き方を見て「元気になった」「気が楽になった」という感想や、「登場している女の子の恋愛観に驚いた」「パリの男性と付き合いたい」といった感想もありました。

――確かに、この作品に登場する在仏7年の日本人女性「なつみちゃん」の「はじめましてがキスで、こんにちはがセックス」という恋愛観には驚きました。「セックスしないと男はわからない」と。そしてそれはフランスではよくあることだということにも。

じゃんぽ~る なつみちゃんは極端な例です。でも彼女はちゃんと勉強してフランス語も話せるし、国家試験に合格し化粧品メーカーに就職。自立した生活を送り、現実の厳しさも知っている。当たり前だけど、フランスに限らず外国でちゃんと生活できるぐらい稼ぐのは本当に大変なんです。パリにはなつみちゃんのようなパワフルな子がたくさんいます。

――フランスは恋愛においてはやはり情熱的なんですか。

じゃんぽ~る そうですね。メールの文章やデート中の過ごし方、かける言葉、スキンシップなどは、日本の男とは全然違います。一般的に言ってやっぱり彼らのほうが上手い。「きれいだな」と思っても、日本人男性は恥ずかしくて言えないけど、フランス人はほめる。小さなころから日常的に街で男と女がイチャイチャしてたり、家庭でお父さんとお母さんがディープキスをしてたりする姿を見ていますから、自然とそうなるんでしょうね。フランス男の言動は日本の男には「マメだ」と映りますが、彼らにとってはそのくらいは当たり前。二次元少女に走る日本人男性はモテないのが原因じゃなくて、そういうことを面倒くさがってるだけだと思いますよ。

――それほどの手練手管を持っていると、在仏日本人女性がだまされやすいなどのリスクはありませんか。

じゃんぽ~る フランス語が全然話せなくても簡単にフランス人の彼氏ができてしまう環境はあるんですけど、そういうカップルだと結局女性が泣かされて帰国、というパターンになりやすい。なつみちゃんも「トラブルが起きたら、自分でフランス人の弁護士を雇って解決するくらいの語学力がなかったら、まともなフランス人とは付き合えない」と言っています。極端な意見だけど、一理あります。でも基本的に男と女がだまし合ってるのは、日本でもフランスでも同じ。やってることも同じ。

――じゃんぽ~るさんから見て、フランス人男性は日本人女性にどのような印象を持っていましたか。

じゃんぽ~る フランス人男性の中には、日本人女性に対するファンタジーがあります。「日本人女性好き」というカテゴリもあると思う。本人たちは否定すると思いますけど、こっちから見ると明らかにそう。日本人女性は、一般的にはフランス人女性ほど強くないし、おとなしい。でも自己主張を全くしないかというと実はそうでなく、「ある日いきなり怒りだす」と言って友人のフランス人男性が驚いていました。日常的にお互いの考えを口に出して妥協点を探そう、という文化の人たちですから、「そこまで言わせるな。黙っていてもこっちの気持ちを察しろ」はフランス男には通じないと思います。そういうズレが起きると彼らは「日本人女性は子どもっぽい」と感じるようです。

■「オシャレなフランス」は間違ってはいない、けれど……

――じゃんぽ~るさんが知り合った日本人の女の子は、どんな目的でパリに来たんですか。

じゃんぽ~る フラワーアレンジメントやファッションデザイナー、料理関係などクリエイター系が多かったですね。あとは語学留学。明確な目的を持っている人もいますけど、そうでない人もいます。1年以上滞在している人に共通して言えるのは、日本が窮屈だと思ってるということ。例えば日本にいると何歳だと結婚してないといけない、子どもがいて当然だろうという雰囲気やプレッシャーがあると思うんですけど、海外だと部外者なのでそういうルールがありませんから。

――それは単に部外者だからですか。それともフランスでは自国の女性に対しても「結婚しろ」といった圧力はないということですか。

じゃんぽ~る あまりないですね。貴族などの上流階級は別として、一般的には結婚しなくてもプレッシャ-はないようです。結婚しないで子どもがいるカップルも当たり前にいます。日本も女性が働かないと成り立たない社会ですから、その点は参考になると思う。それと、フランスはお金をかけずに日常生活を楽しむことができるのもいいところ。フランスのライフスタイル本でよく言われていることですけど、本当にそうなんです。たとえば、みんながワイン1本とか家で作ったサンドウィッチとかを持ち寄って楽しむ「フェット」と呼ばれるホームパーティーがよくあります。平日でもしょっちゅう開かれるので、僕もよく参加してました。フランスだと「今夜フェットするけど、来ない?」の電話一本でみんなが集まる。当日に誘うのもOKだし、都合が悪ければ断ればいいんです。でも日本でそれをやったら「急に誘われても行けるわけない」と逆に怒られちゃうし、平日にフェットをやったら誰も来なくて、誘ってから「非常識だった」と気付きました(笑)。日本ではがんばらないとできないことが、フランスでは軽くできる。

――女性を煽っているフランス本はその通りだということですね。

じゃんぽ~る その通りです。でも、向こうは向こうで問題もある。本に描いたように、ホームレスも多いし、日本みたいに治安もよくない。フランス人の友だちに言わせると、「日本のフランスのイメージは一面的だ」と。確かに移民が多く、中華街には中国人ばかりだし、黒人ばかりの地域もある。街によって服装も髪型も違う。パリに旅行に来た日本人が街の人を見て、「これだったら東京のほうがオシャレじゃん」と言っていました。オシャレなパリがあるのは事実だけれど、そればかりではない。60年代のヌーベルバーグや、僕らの世代だと、子どものときのマンガ『ベルサイユのばら』や、雑誌「オリーブ」(マガジンハウス)、映画『ポンヌフの恋人』、『アメリ』などの影響でオシャレなイメージが定着して、それがずっと変わらず続いているんだと思う。

――1年間暮らしてみて、日本人はフランス人に対してコンプレックスを抱いていると思いますか。

じゃんぽ~る フランスというより欧米文化全般じゃないですか。僕も昔はMTV(アメリカの音楽専門チャンネル)にどっぷりでしたし、コカコーラのCMの世界観が大好きでした。でも、特に「フランス」というのはなかったですね。男女の差かもしれません。フランスが舞台の少女マンガはあっても少年マンガは思い浮かばないですし、恋愛映画も女の人が中心だし。男にとっての憧れのフランスは、サッカーくらいですかね……。

 女性(特に元オリーブ少女)の脳内に刷り込まれている「オシャレな恋愛都市、パリ」のイメージは、あながち間違いではないようだ。しかし、それ以上に、トホホなパリ、オモロいパリもある。その点に気づきスポットを当てることができたのは、作者が男性だからこそだろう。男目線だから描きえた『パリ愛してるぜ~』、これもパリの真実だ。
(安楽由紀子)

じゃんぽ~る西
日本在住のマンガ家。代表作『パリの迷い方』(集英社)に数十ページの描き下ろしを加えた新刊『男一匹パリ日記(仮)』が年内に発売予定。フランスのITニュースサイト「clubic.com(クルビックドットコム)」のコラムライブジャポンにて週刊4コママンガを連載中。ブログ「つつじヶ丘通信」

『パリ 愛してるぜ~ 男一匹パリ暮らし』

パリ好きってことは、辻仁成と同じメンテリティーってことよ?

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