[連載]海外ドラマの向こうガワ

救いのない犯罪者の心理に迫った『クリミナル・マインド』がウケた理由

2011/02/02 16:00
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『クリミナル・マインド シーズン1
コレクターズBOX Part1』

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 以前、『NCIS~ネイビー犯罪捜査班』を紹介したときに触れたが、21世紀に入りアメリカでは空前のクライム・サスペンス・ブームが起きている。視聴者のニーズに応えようと次々と犯罪捜査ドラマが制作され、その多くがヒットとなっている。アメリカ人が、ここまで犯罪ドラマを好む理由は、ずばりアメリカが犯罪大国であるからだろう。

 アメリカでは年間1,115万件の主要犯罪(放火を除く)が起こっているが、そのうち凶悪・暴力犯罪事件は138万件(外務省発表)。ちなみに日本の年間刑法犯認知総件数は182万件で、そのうち凶悪・暴力犯罪は約4万件(警察庁の警察白書)である。日本の人口はアメリカの半分以下であるが、それを考慮してもアメリカの犯罪が格段に多いことがよく分かる。

 このようにアメリカでの犯罪事件発生率はとても高いのだが、逆に犯罪検挙率はとても低い。殺人事件における検挙率はわずか60%程度(日本は98.2%)。多発する殺人事件に犯人検挙が追いつかないのだろう。300人以上を殺害したとされるヘンリー・リー・ルーカスや、33人の少年を強姦した後殺害した殺人ピエロことジョン・ゲイシーなど、日本では考えられないほど多くの犠牲者を出した後、やっと逮捕されるという連続殺人事件も多い。

 連続殺人事件は、被害者と加害者の接点がほとんどないため、聞き込みや科学捜査だけでは行き詰ってしまうことが多い。その妥協策として、FBIアメリカ連邦捜査局は、30年前から連続殺人犯の素性を割り出して犯人をつきとめるプロファイリングという捜査方法を採用している。

 2005年秋、FBIに所属するプロファイリング・チームの活躍を描いた、新感覚のクライム・サスペンス・ドラマが放送開始となった。これまで描かれることがほとんどなかった、凶悪殺人鬼の心情、心理、これまでの生い立ちなどに焦点を当て、「なぜ殺人鬼になってしまったのか」を描く『クリミナル・マインド FBI行動分析課』である。

 物語の主人公は、犯罪プロファイリングを駆使して連続殺人鬼を追い詰めていくFBIのBAU(行動分析課)エリート・チーム。リーダーは冗談が通じないタイプのお堅い中年の正統派FBI捜査官で、年配のベテラン・プロファイラー、22歳の若さで3つの博士号を持つ天才捜査官、爆弾処理班に所属していた行動派捜査官、元ハッカーの女性IT技術分析官、など個性的なエリート・メンバーたちと共に、全米で発生する連続殺人事件を捜査する。

 これまでの犯罪ドラマは、捜査をする側の心情や心理を描くものがほとんどで、最近では、最新技術を駆使して犯人を突き止めるものが人気を集めていた。内容もビジュアル的にも素晴らしい作品ばかりだが、パターン化されつつあり、面白みが半減してきた感も否めなかった。そんな中、犯罪者をエピソードの主人公とした『クリミナル・マインド FBI行動分析課』がスタート。視聴者が犯罪者に同情するという不思議な感覚に陥る新感覚のクリミナル・サスペンスとして人気を集め、たちまち高視聴率を獲得するようになった。

 犯罪者は心の奥底に歪んだ闇を持っている。ドラマでは、この闇がどのようにして出来たのかが詳しく描かれている。連続殺人犯の70%近くが幼児期に虐待を受けていたり、兆候として幼少期に「マクドナルドの三要素(夜尿症、放火、動物虐待)」があるといわれるが、犯罪者はオドロしい過去を持っているものが多く、それだけでドラマになるとクリエーターは考えたのである。

 プロデューサーは、毎回、犯罪者を演じる役者を慎重に選ぶという。抜擢されるのは脇役として活躍する役者が多いが、これ以上はないという適役であり、ドラマにリアリティ感を与えている。また、BAUチームのメンバーを演じるのは、『ダーマ&グレッグ』でブレイクしたトーマス・ギブソンなど美男美女ぞろいなのだが、キャラクター設定は地味であり、犯罪者以上に目立つことはあまりない。あくまで主役は犯罪者なのである。

 犯罪者への同情を誘うシーンも多いが、ドラマに出てくる殺人鬼はもはや更生不可能な者ばかり。BAUの予想をはるかに上回る残虐な行動をとっていることも多く、絶望的な結末になることも少なくない。しかし、それがドラマにぐっと深みを与えているのである。心理劇にふさわしく、毎回、エピソードの最初と最後に有名人や偉人の名言・格言が紹介されるのも、美しく、奥深い演出となっている。

 犯罪者の心の中に入り込むバーチャル体験ができる『クリミナル・マインド FBI行動分析課』。エピソードの最後に描かれる、犯罪者と捜査官の手に汗握る心理的な駆け引きは、これまでにないスリル感をあなたに与えてくれるだろう。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『クリミナル・マインド シーズン1 コレクターズBOX Part1』

金曜深夜にテレ朝でやっとりますがな

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最終更新:2011/02/02 16:00
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