[連載]海外ドラマの向こうガワ

ヒーローになる前の葛藤の日々を描いた『ヤング・スーパーマン』

2010/02/25 17:00
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『ヤング・スーパーマン 〈フィフス・シーズン〉
DVDコレクターズ・ボックス1』/ワーナー・
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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 日本のマンガとはひと味違うアメリカン・コミック。1934年にアメリカ初のコミック本が発行された当時は、一般大衆受けするコメディーや風刺を効かせた作品が中心であったが、1938年にリリースされたアクション・コミックス誌第一号を飾った『スーパーマン』の誕生と共に「スーパーヒーロー」が主人公の作品が主流となり、ハイスピードでアメリカン・コミックの黄金時代を築き上げていった。

 カラフルなコスチュームのヒーローが悪敵を倒し、セクシーなコスチュームを身につけたヒロインがモンスターに果敢に立ち向かう、「リアルな描写」と「激しいアクション」で、視覚的に楽しませてくれるスーパーヒーロー・コミック。「マーベル・コミック」や「DCコミック」といったアメコミ専門の出社社の設立に伴い、インパクトの強いストーリーラインの作品が次々と創作され、『バットマン』『スパイーダーマン』『ハルク』『ワンダーウーマン』など数多くの人気スーパーヒーローが生まれた。その中でも時代を超えて常に一番人気をキープしているのが、『スーパーマン』である。

 どちらかというと「イケてない、オタクっぽい」サラリーマンの主人公が、ピンチになると筋肉ムキムキのスーパーヒーローに変身。地球を救うというシンプルなストーリーは、アクション・コミックの方程式にもなっており、ヒーロー好きなアメリカ人を「まるで自分がスーパーヒーローになったかのような」疑似体験させてくれる名作として、いつの時代も愛されてきた。あまりの人気に、一度は死んだ形で最終回を迎えたスーパーマンを蘇らせたほどである。

 絶大なる人気を誇る『スーパーマン』はこれまでアニメ化、TVドラマ化、映画シリーズ化されており、各国で放送、放映されてきた。しかし、2001年、これまで人々がスーパーマンに対して抱いてきたイメージを「よい意味で」覆すTVドラマがスタートした。スーパーマンが、まだスーパーマンになる前の「若き青い時代」を描いた、『ヤング・スーパーマン』である。

■”アンチ”も取り込んだ、優れたストーリー

 物語の舞台は、原題にもなっている、カンザス州の田舎町「スモールビル」。1989年の大隕石落下と共に地球にやってきた少年を、子供に恵まれなかったケント夫婦が養子として迎え入れ、愛を注ぎながら育てるところからスタートする。少年はやがて青年になり、両親から禁じられた超能力を「町の平和のため」極秘で使うように。自分はエイリアンだという重い秘密を打ち明け、精神的に頼れる友人にも恵まれるようになるのだが、運命に逆らうことが出来ず、責任感に押しつぶされそうになることも多い。

 国民的ヒーローの隠された過去が語られる作品として、放送前から注目されていた『ヤング・スーパーマン』は、第一話目から放送局にとって記録的な視聴率をマーク。9.11同時多発テロ以降、「名も無きヒーロー」を尊敬する気持ちが高まっていたアメリカにとって、無名時代の「繊細な」クラーク・ケントを題材とした作品は幅広い層から受け入れられたのであった。

 本作品は、ずばり、スーパーマンがスーパーヒーローになるまでの過程を描いたものであるが、人間としてのモラルとは何かを汲み取ることもできる奥深い作品でもあり、テレビ番組の内容を厳しく監視している保守的な非営利団体「ペアレンツ・テレビジョン・カウンシル」の「家族向けに最も適している番組」トップ10入りするほど、多方面から高く評価された。

 また、あくまで内面的な描写、人間性、親との関係、友人関係、恋愛関係などを重視した物語展開となっており、スーパーアクションや怪事件に頼りきっていない点も新鮮で、アンチ・スーパーヒーローも感銘できる内容になっているのも、ヒットした要因だといえよう。

 日本でも2月24日にDVDリリースされるシーズン5では、クラークは自分の使命を果たすことを決意。無敵のスーパーヒーロー、『スーパーマン』も一夜にして生まれたわけではなく、それまで数々の苦悩を乗り越えてきたことを本作品は教えてくれる。もちろん、楽しいこと、人を愛することなど、素晴らしい経験もしており、成長した姿がスーパーマンなのである。

 毎年、数多くのドラマが制作されるが、シーズンを重ねても、毎回、感動を与えてくれる作品は、そう多くはない。私たちが忘れかけていた「生きることの素晴らしさ」を教えてくれる『ヤング・スーパーマン』は、ピュアな気持ちを呼び戻させてくれるドラマなのである。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『SMALLVILLE / ヤング・スーパーマン 〈フィフス・シーズン〉DVDコレクターズ・ボックス1』

クラークが暗くて、逆にエロス。

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最終更新:2010/03/02 18:39
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