通販連動型ドラマを検証(前編)

新たな戦略!? 『リアル・クローズ』に透けて見えるTV局の倫理観

2009/11/10 11:45
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ドラマの公式HPが通販サイトへの動線として機能している

 関西テレビ制作のドラマ『リアル・クローズ』が、新たなビジネスモデルを提示したとして注目を集めている。ドラマの中で俳優が身に付けていた服や小物を、リアルタイムで専用のPC・携帯サイトから購入させるという仕掛けだ。地上波連続ドラマにおいて、初の試みだという。

 初回放送時は同ドラマのホームページにアクセスが集中し、サーバがダウン。関西テレビコンプライアンス推進局企業広報部の大平雄司氏は、「初回放送終了後、翌朝10時までに約350点、第3回放送終了後24時までの累計で約2,400点の購入があった。1週間の売上の6~7割が放送当日及び翌日に集中している」と話す。

 実際、第3回放送中にPC通販サイトにアクセスしてみたが、俳優が登場して商品がアップされてから1分ほどで売り切れてしまう商品もあった。回を重ねるごとに売れ行きとアクセス数は落ちているとのことだが、視聴率は初回9.8%から、第2回10.0%、第3回11.2%とジリジリ上がっている(ビデオリサーチ、関東地区調べ)。

 反響が大きい一方、この新手ビジネスの是非を問う一部報道があった。ネット上などでも、番組と広告の線引きや公共電波の使い方に関して議論を呼んでいる。確かに番組の最後には、「ドラマの中で私たちが着ている服がゲットできちゃいます」と主演の香里奈がほほ笑み、ホームページのURLが表示される。洋服を売るためのドラマだったのか、と首をかしげる視聴者がいても無理はない。

 立教大学社会学部メディア社会学科の砂川浩慶准教授は、「映画『トゥルーマン・ショー』で描かれたような、番組内に商品広告をさりげなく入れ込む手法は古くからある。例えば、ドラマの中で俳優がスポンサー企業の車(商品)に乗って登場するといったやり方だが、今回のように広告とうたっていないのに堂々と番組からサイトへ誘導するのは問題。テレビショッピングに対する批判もある中で、広告なのかドラマなのか、視聴者に対する説明が不充分なのでは」と指摘する。

 しかし、この手法は放送法に抵触しているわけではない。日本民間放送連盟(以下、民法連)の放送基準においても、CM放送量の規制はあるが、個々の番組が広告なのか娯楽なのか、などを分類する規定はない。番組の位置付けは各社の判断に任されているのが現状だが、砂川准教授は、「作り手は、新聞や雑誌と違って電波が有限希少で公共性が高いということを考えなければいけない。新聞が記事広告に『PR』などの表示をするように、媒体者の責任としてテレビも『広告番組』などのカテゴリーを作り、視聴者に間違った認識を与えないよう説明をすべき」と語った。

 さらに、「冷静な視聴者は、広告的な要素の強い手法にはしらけてしまうため、今回のような手法を採ると、テレビ局は信頼性という部分で自分の自分の首を締めることにもなる」(砂川准教授)と危惧する。

 関西テレビの大平氏は、「あくまで番組はドラマ。今まで衣装に関する問い合わせには応えていなかった。通販はそういった要望に応える視聴者サービス」と主張する。『発掘!! あるある大事典Ⅱ』のデータ捏造問題をきっかけに発足した、「オンブズ・カンテレ委員会」が同ドラマに関する討議を10月16日に行っている。ネット上で公開されている討議内容は次の通り。

「新たな試みを行うのは大切といった意見や、ドラマとして作品をしっかり作って欲しいなどといった意見が出されました。また、販売する製品についての品質管理等もしっかりやっていかなければならないなどの意見が出ました」

 ほかに議事録はなく、番組と広告の線引きなどの問題についてはふれていない。11月12日に行われる番組審議会では、『リアル・クローズ』の番組は取り上げるが、番組と広告の線引きという問題については、審議する予定はないという。

(後編へ続く)

『Real Clothes 1』

槇村先生の心中やいかに

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最終更新:2011/03/13 21:55
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