[連載]海外ドラマの向こうガワ

出演者もカミングアウト! レズビアンが作り出す”Lの世界”のリアル

2009/08/11 12:00
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『Lの世界』シーズン5 DVDコレクターズBOX/
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント
・ジャパン

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 昨年、カリフォルニア州で同性愛者カップルの結婚が認められるようになったことが大きなニュースとなったように、アメリカにおけるホモセクシュアルやレズビアンたちは少しずつ市民権を得るようになってきた。だが、ほんの40年前までは「飲食店が同性愛者に酒を売ることを禁じる」という法律が世界最先端都市ニューヨークで存在していたほど、彼らに対する差別は凄まじいものだった。

 背景には、国民の約85%が信者だとされるキリスト教の価値観が色濃く影響している。「子作り以外の性交渉」を禁じているキリスト教では同性愛の性交渉は最大のタブーとされているのだ。

 しかし、同性愛者たちの根気強い活動と、時代の大きな流れにより同性愛者同士の性交渉を禁止する法律(ソドミー法)は徐々に改正。TVドラマの世界では、80年代を代表する名作『ダイナスティ』で地上波チャンネルで放送されるTVドラマ史上初となる「普通の姿、格好をしたホモセクシュアル」キャラクターが登場。HIVやエイズの蔓延による厳しい反発を乗り越え、90年代後半にはゲイの男性が主人公のコメディ『ふたりは友達? ウィル&グレイス』が放送され大ヒットした。

 しかし、『ダイナスティ』ではホモセクシュアルの生々しい描写は一切放送されず、『ふたりは友達? ウィル&グレイス』も「おかまっぽい仕草や話し方」を笑いの種にした、コメディであり、どちらも同性愛者の「現実」を描いたものとはほど遠かった。

 21世紀になると『クィア・アズ・フォーク』やアル・パチーノ主演のミニシリーズ『エンジェルズ・イン・アメリカ』が、ケーブル・チャンネルで放送。踏み込んだゲイ社会を描き話題を呼んだが、主人公は常に男性の同性愛者、ホモセクシュアルであった。

 女性同性愛者、いわゆるレズビアンは、「ポルノ世界」の産物であり、男性のファンタシーや性欲を満足させる「ジャンル」の一つ、という空気が漂っていたのである。

 2004年、アメリカTV史上初の女性同性愛者、レズビアンを主人公としたドラマ『Lの世界』が放送開始された時も、性的な興味からチャンネルを合わせた男性も多かったはずだ。しかし、彼らの考えは瞬時に改善されただろう。なぜなら、物語は交際歴7年をむかえた「堅実」な女性同性愛者カップルが、子供をもうけ家庭を築こうと動き始めるところからスタートするからである。

 レズビアンであることをカミングアウトできない苦しさ、理解してくれない親との不仲、レズビアン・カップルが家庭を築く難しさ、結束力は強いが「ある意味」狭いコミュニティであるため人間関係が複雑に絡み合いやすいレズビアン社会の問題点、「保守的なキリスト団体との衝突」に代表されるタブー視されやすい社会問題など、『Lの世界』には女性同性愛者たちのリアルな生活が赤裸々に描かれており、同性愛者たちはもちろんのこと、リベラル派のアメリカ人の支持をうけジワジワと視聴率を伸ばすようになった。

レズビアンのスタッフが作り上げた、リアルな”世界”

 ドラマを制作したクリエーター、アイリーン・チェイケンは女性同性愛者であり、脚本家もほぼ全員が女性同性愛者。これだけリアルなレズビアン・コミュニティを描けたのには、彼女たちの「わたしたちの世界を伝えたい」という強い気持ちに支えられてきたからである。

 強気にドラマを制作している彼女たちだが、決して押し付けがましく描くのではなく、「ヘアスタイリスト、ミュージシャン、ジャーナリストに女流小説家」など、性に開放的な職業に就く女性たちがメインキャラクターであること、同性愛婚が許され(註)、コミュニティが形成されている街ロサンゼルスを舞台にすることなど、同性愛者に抵抗がある人々へ「ワンクッション」を入れるという配慮も欠かさない。

 また、同性愛者という難しいテーマであるが、お堅いヒューマン・ドラマではなく、異性愛者である女性が見てもドキドキしてしまうようなセクシュアルなシーンあり、コミカルなシーンもあり、全体的には肩の力を抜いて楽しめるラブストーリーに仕上がっている。一度見始めたらハマってしまうストーリーラインであるため、興味本位で見た視聴者もリピーターとなり、ドラマをヒットへと導いたのだ。

 演じる女優たちも「文句なし」の実力派ぞろい。映画『フラッシュ・ダンス』で世の女性たちから羨望の眼差しを集めたジェニファー・ビールスを筆頭に、『オール・オーバー・ミー』が出世作で私生活でも同性愛者であるレイシャ・ヘイリー、『エキゾチカ』のミア・カーシュナー、映画『フォクシー・ブラウン』など70年代を代表する大御所女優パム・グリアらが、体当たりの演技を披露してくれる。日本で8月21日にリリースされるシーズン5には、映画『トップガン』の女教官役で一世を風靡したケリー・マクギリスがゲスト出演し反響をよんだが、同性愛者だとカミングアウトしている女優たちがゲスト出演しているのも特徴となっている。

 世界的に大きな話題を振りまいた『Lの世界』。社会現象となったヒット作でありながら、地上波ではなくペイチャンネルで放送されたところが、同性愛者に対する「アメリカの今現在の姿勢」そして「現状」を表しているように思えてならない。

 日本では、アメリカ以上に偏見の目で見られることが多い女性同性愛者たち。彼女たちを理解するとまではいかなくとも、存在を「認知する」第一歩として『Lの世界』はオススメの作品である。

(註)昨年、カリフォルニア州で同性愛者カップルの結婚が認められるようになったが、同年11月の住民投票により同性婚を禁止する条例案が可決され、現在は禁止されている。しかし、同性婚が認められていた6月~11月までに結婚したカップルの同性婚は有効とカルフォルニア州細工裁判所は認めている。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

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最終更新:2010/01/04 19:12
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