外見オンチ応援カウンセラーの「脱・恋愛オンチ」 第12回

“人工美人”は幸福になれます!? 『ビューティ・コロシアム』の功罪

2009/06/29 08:00
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過剰なキャッチコピーが興味をそそる

――美人でない人=外見オンチが、「美の格差社会」の中で、自分らしく生き抜くためにはどうすればいいのか? そこいらの美人だけが取り柄のエッセイストには書けない建前抜きの恋愛論。

 フジテレビ『カスペ! ビューティー・コロシアム’09 夏が来る! 奇跡の大激変連発SP』(6月23日)が放映された。美容整形前後の姿を見せる”ビフォアー・アフター”が売りの視聴者参加番組だ。司会は和田アキ子。

 今回の番組宣伝コピーは、「ナメクジとよばれた悲痛人生に全員号泣! 極小の目…超難関手術に挑む! ▽ゴリラのバケモノとよばれたキス未経験の孤独49歳女性が奇跡の20歳若返り」。

 登場したのは6人の女性。彼女たちの変身前後のキャッチコピーと一緒に紹介してみる。

(1)「ゴリラ顔と罵倒される49歳の孤独な人生」谷村千恵子さん(49歳、仮名)
→「大激変でエレガント美人へ」。「孤独な人生から抜け出します」とスタジオへ。

(2)「不機嫌そうに見える目に笑顔まで奪われた私」小柴由里(24歳、仮名)
→「キツイ目でイジメられた女性 超キュートに大激変」

(3)「22年間溜まったタルミが私をオバケにした」栗山好戸(67歳、仮名)
→美容整形なしのリフティングアップなどで「最新エステで美人マダムに」「自分の人生を楽しんで生きていきます」

(4)「私はキレイになれない 悲しき引きこもり人生」西野留美(28歳、仮名)
→バランス整形施術。「みんなに見てもらいたいです」

(5)「ブーちゃんと呼ばれて」高森由美子(30歳、仮名)
→埋没法施術。「メリハリボディになって、アイドル級に激変!」「もうブーちゃんとは呼ばせません」

(6)「暗闇から出られないナメクジ女」海本杏子(27歳、仮名)
→彼女の場合、大塚美容整形外科の半田副院長から「最高レベルに困難な難しい方だと思います。それなりのレベルのものに施したい。中途半端ならやらないほうがいいかもしれない」と言われ、アフターの紹介は次回へ持ち越し。

 よくも人の顔に向かって「大激変」などと言えるものだと思って調べていたら、『ビューティー・コロシアム』出演の複数ある申込先のひとつは、共同テレビジョン「情報バラエティ部 bcスタッフルーム宛」だった。

 情報バラエティ部門だから、キャッチコピーも言いたい放題なのだろう。商品の”ビフォアー・アフター”の紹介を見せられている感じだ。だから「こんなに変わっていいんですか~~~!!」と、スタジオが唖然とするところをフォーカスしていく。

 彼女たちは「ゴリラ」「ひどい顔ね」「オバケみたい」「ブサイクだから教えたくない」「そんな顔の人、接客に出せないから」「なに睨んでるんだよ、ブス」と暴言を投げかけられてきた。彼女たちの人生は壮絶だ。いじめは当然のようになっている。

 (6)の梅本さんの場合、小さい目、突き出た口の印象から「ナメクジ女」と言われ、頭から塩をかけられた経験もある。臭いと言われないように、1日3回、お風呂に入っていたという。ラブレターを送ったら「ナメクジに字が書けるんだ」とまで言われ、工場に就職しても「気持ち悪い」「気味が悪い」と言われ続けてきたという。「違い」を受け入れない、見た目主義の社会にわたしたちが生きていることを、この番組でつきつけられる。

 「キレイになれば人が寄ってくるんじゃないかと思っている」(中尾彬)と、外見を変えればモテると思っていることにカツを入れられる場面もあった。でも、芸能界なんて、プチ整形は当たり前と言われているのにと思いながら聞いてしまった。

 タレントの発言のところどころにホンネが見え隠れしている。(2)の小柴由里さんが、施術後に「キツイ目でイジメられた女性 超キュートに大激変」と出てきたとき、FUJIWARAの藤本敏史が「見つめられたい! あの目だったら」と言っていた。テレビでのこういうコメントこそ、いじめに通じる構造であって、彼もその片棒を担っていると思った。

 (4)の「悲しき引きこもり人生」から変身した西野留美さんが登場したとき、「ずるい~~~」とスタジオから声があがった(女性だったが、誰かはわからず)。これもホンネ。美に価値を置く社会なのに、整形手術でそれを手にいれ、社会に出ていこうとする人には後ろ指を差すのである。

 日本ではまだ美容整形はこっそり、こっそりだ。「外見オンチ」と言われていたのと一転、今後は「人工美人」として世間から認知される。変身した出演者たちは、傷ついた心をどのようにリカバーしていくのか。

 彼女たちのほぼ全員が、「これから恋愛をしたい」と言っていた。恋愛についても、人工美人が好きな男性もいれば、天然ブスが好きな男性もいる。見かけより心だという人もいるだろう。そのことを心で受け止めた上でのスタートであって、決して、見た目が変身しただけで幸せがやってくるとは、わたしには思えない。

 『ビューティー・コロシアム』では、かつては明示していた”変身”料金を出さなくなっている。

 わたしの「変わった顔」にメスを入れるのにいくらかかるか知りたくて、大塚美容整形外科の無料カウンセリングに、昨年出かけた。半田副院長のカウンセリングを受けたところ、かかる金額はトータル164万3250円(あごと鼻の手術)と提示された。これに、ヒアルロン酸注射、ほくろ取りなどを加えたら、軽く200万円はかかる。

 美容整形外科でカウンセリングを受けて感じたのは、顔のコンプレックスや心の悩みを聞いてくれるような感じではないということ。ビジネスとしてすぐ顔の”見積もり”を出さなくてはいけないから、心に寄り添いはじめると、顔ビジネスは成り立たない。

 いつ見ても”イタイ”番組であることは間違いない。わたしには、幸せさが伝わってこない。「大変身」した女性たちに、テレビを通さない生の声を聞いてみたくなった。

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山中登思子(やまなか・としこ)
1966年生まれ。編集家、外見オンチ応援カウンセラー。占いスペース「桜」(新宿駅西口)、「通販あれこれ」経営。お茶の水女子大学卒業後、リクルート「就職ジャーナル」、「週刊金曜日」編集部に在籍。200万部ベストセラー『買ってはいけない』の企画・編集・執筆者。著書に『天然ブスと人工美人 どちらを選びますか?』(光文社)、共著にスピリチュアルカウンセラーの”ホンモノ度”を格付けした『第2の江原を探 せ!』(扶桑社)など。公式ブログ
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最終更新:2019/05/17 21:03
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