新潮社校閲部・湯浅美知子さんインタビュー

「実際も毎日がトラブルです!」 現役の校閲ガールに聞く、プロフェッショナルな仕事の世界

2016/10/18 15:00
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新潮社校閲部・湯浅美知子さん

 10月5日に放送が開始された新ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)。石原さとみ演ずる河野悦子が、出版社の校閲部でさまざまなハプニングに遭いながらも、持ち前の明るさと負けん気で猪突猛進していく姿が描かれている。

 石原の個性的なファッションを含め、ドラマ的エンタメ要素を十分に盛り込んだ作品として注目を集める一方で、「現実の校閲の現場とあまりに乖離している!」と一部で批判もあった。

 そこで、作家の石井光太のツイートを発端にネットでも話題になり、「プロの仕事ぶりがすごい」と出版業界で一目置かれている新潮社校閲部に取材。実際の校閲とはどのような仕事なのか、現役の“校閲ガール”湯浅美知子さんに、話を聞いた。

■基本的に著者には会わない

――校閲とはどんなお仕事でしょうか?

湯浅美知子さん(以下、湯浅) 根本的なことを言いますと、校閲は著者が書いた原稿の内容が読者に正しく伝わるように確認して、間違いがあればそれを正すことが一番大切な作業です。もし誤字があったり、漢字の表記が間違っていたりすると正しく伝わらないですよね。新潮社は著者が書いた原稿を大切にすることが第一という方針なので、原稿をより良くするために、どんどん手を入れようということではなく、有名な画家が仕上げた絵に描き足したりしないのと一緒で、著者の意図や言葉の意味がその通りに読者に伝わるように私たちが確認しています。書籍や雑誌以外にもカレンダーやプレスリリース、表彰式のご案内の手紙なども校閲することがあります。

――本などの出版物の「質」を守るということで、とても責任の重い仕事だと思いますが、ミスをすることはないのですか?

湯浅 この仕事をしていたら誤植を今まで一度も出したことがない人はいません。なので、問題はひどい誤植をどうやって防ぐかということになるのですが、一番やってはいけないミスは「人名」です。お名前を間違えたとなると、本が刷り直しになることもあります。それ以外にも書籍の顔であるカバー周りや、発行日などの流通に関わる部分を間違えてしまうと、これは大きな失敗ということになります。

 野球に例えると、守備の選手は捕って当たり前なので、めったにエラーが許されないですよね。校閲もそういう世界で、一回大きなエラーをしたら「珍プレー大賞」みたいな感じで語られ続けるんですよ(笑)。野球の守備率は95%以下だとザル扱いされるらしいですが、我々もそれくらいはできて当然という部分があると思いますね。

――ドラマでは、主人公の河野悦子がさまざまなトラブルを乗り越えていく様子が描かれますが、実際の校閲の現場でもトラブルが起きることは多いですか?

湯浅 実際は毎日がトラブルで、はっきり言ってそのトラブルを収めるのが仕事みたいになっています。ドラマみたいな大きなトラブルが起こるのは3カ月に1回くらいですが、小さいことは毎日です(笑)。

 編集者は著者のことを知っているし、対面でのやり取りもあるけれど、私たちは基本的に著者にはお会いしませんし、ゲラに書き込んで、文字だけでやり取りをすることが多い。できるだけ客観的な書き方をするんですけど、誤解されて伝わってしまうこともあります。デリケートな著者の場合は、このまま伝わるとまずいなと思って編集者がアレンジして伝えるべきなんですけど、校閲の書いたものをそのまま著者に持っていってしまって、揉めてしまうこともあります。校閲者と編集者が手を組んでやらなくてはいけない場面も多いんですね。

 不思議なのですが、著名な方の本でも一冊の本ができあがる間に関わっている人が揉めると絶対に売れないんですよ(笑)。反対に、そんなに著名な書き手じゃなくても、こちらの提案に対して、互いに納得して進めていくことができたものは、後々何かの賞を受賞したりといった出来事もあって、書籍にまつわる仕事の面白さを感じますね。

――校閲の仕事をしてきて、なにか印象的なエピソードはありますか?

湯浅 押切もえさんの小説を担当した時に、押切さんはとても熱心に原稿の直しを入れていて、校閲もなかなか大変な作業になってしまったんですね。ところが、ある日突然、私のデスクまで担当の編集者と一緒にいらっしゃって、「すみません」とお声をかけていただきました。著者の方と私たちとは普段はとても遠くて、めったにお会いすることがない分、お会いした時のことは印象に残っていますね。

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