『同性カップルの子どもたち』著者・杉山麻里子さんインタビュー(後編)

多様な家族のかたちを受け入れるには何が必要か? 同性カップルの子育てから考える

2016/07/01 15:00

(前編はこちら)

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『ルポ 同性カップルの子どもたち――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』(岩波書店)

 戦後から今日に至るまで、夫婦と子ども2人の家庭は「標準世帯」と呼ばれ、典型的な家族構成の概念として浸透している。しかし近年、晩婚化や少子化、シングルファザー・マザー家庭、外国人家族などの増加により、家族構成の多様化が浮き彫りになるなか、長らく標準世帯をベースに政策やマーケティングを進めてきた国や企業、そして我々自身の価値観も、変化が必要な時期に差し掛かっているのではないだろうか。

 また、2015年11月5日には、東京都渋谷区が全国に先駆けて、同性カップルを結婚に準じる関係と公的に認める「パートナーシップ証明書」の交付を始めた。証明書発行の第1号として注目されたLGBTアクティビストの東小雪さんと、パートナーの増原裕子さんは妊活を公言しているが、日本において同性婚が認められていない以上、婚姻関係外で子どもを産むことになる。子育てにおいても婚姻関係は、さまざまな権利を含んでいることもあり、同性婚を容認するよう訴える同性カップルは少なくない。

 同性カップルの家族をはじめ、多様な家族のかたちを受け入れる社会には、どのようなことが求められるのだろう――。朝日新聞社会部の記者としてさまざまな家族を取材し、ニューヨーク滞在中に同性カップルの子どもたちの姿を記した書籍『ルポ 同性カップルの子どもたち――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』(岩波書店)を執筆した杉山麻里子さんに聞いた。

■育児中の同性カップルがメディアに登場するようになったら、社会も変わっていく

――同性カップルの権利保障をめぐる議論や制度が進展しているアメリカですが、「異性カップルによって構成される伝統的家族を守りたい」「同性婚を生理的に受け入れられない」という人も一定数います。制度は変えることができても価値観や意識をまとめていくのは困難なことだと思うのですが、取材を通して、それを乗り越えるヒントのようなものはありましたでしょうか?

杉山麻里子さん(以下、杉山) キリスト教保守派や共和党の一部の人たちは、「結婚は男女のもの」「子どもには父と母が必要だ」という考えが根強く、同性婚が合衆国憲法で認められた今も、同性婚や同性カップルによる子育てに反対しています。ひとつの価値観にまとめていくというのは、そもそも無理なんですが、それでも世論の変化を見ると、01年に同性婚に反対している人が57%いたのですが、15年には39%に減っており、時代とともに変わっていくものなのかな、と思います。

 世論が変わるきっかけは、カミングアウトする同性愛者や、子どもを持つ同性カップルが増え、彼らが地域に溶け込んで、「異性愛者の家族と変わらないんだ」と感じさせたこと、そして何より同性カップルに育てられた子どもたちの声でした。なかでも、レズビアンカップルに育てられた男子大学生による11年のアイオワ州議会での証言は、同性の親に育てられた子どもに対する多くの人の見方を変えたといわれています。

――その一方で、日本の同性カップルが子どもを持てるようになるまでには高いハードルがある、とも指摘されています。同性カップルが子どもを持つと、子どもが不幸になるという意見も少なくない中で、そのハードルを下げるためには、何に対してどのような働きかけが必要だと思われますか?

杉山 日本でもレズビアンカップルが子育てをしているケースがありますが、パートナーとの関係を学校など周囲にオープンにしていないことも多いようです。男性と離婚後、子連れで「再婚」したレズビアンカップルを取材しましたが、一部の親しい人を除いて、周囲にはシングルマザー同士、助け合って暮らしている、と説明しているようです。

 まだあまりに少数派なので、オープンにすることによる子どもへの影響を考えざるを得ないのだと思います。渋谷区の同性パートナーシップ条例施行などもあって、メディアなどで「子どもを持ちたい」と公言するレズビアンカップルも出てきていますが、今後、子育て中の同性カップルがメディアに登場する機会が増えれば、社会の見方も変わっていくのではないでしょうか。アメリカのように、テレビドラマや映画で、子育てする同性カップルを普通に描くことも有効だと思います。

――アメリカで同性カップルに育てられている子どもは21万人近くに上るという調査結果もありますが、そうした子どもたち、いわゆる「ゲイビー」に対するいじめや偏見も少なくないようですね。

杉山 地域によって、だいぶ差があります。ニューヨークやロサンゼルスといった大都市では同性愛者や子育てする同性カップルのコミュニティもあり、暮らしやすいとされていますが、保守的な中西部の州などでは、差別や偏見にさらされることがあるようです。

 08年に実施された子どもを育てる同性カップルらへの調査では、「ゲイビー」たちが同級生や教師、他の保護者からもいじめや嫌がらせを受けていることが明らかになっています。ゲイビーの中には、特に思春期の中学時代、家族について学校では話さないようにしている子もいます。一方で、勇気を出して両親についてカミングアウトし、「自分の家族は普通の家族とまったく変わらない」と訴えることで、周囲に理解されるようになったという例もあります。

 ゲイカップルの養子として育てられた18歳の女子高生に取材した時、学校でいじめられても、それをバネにして乗り越えていくことができたのはなぜか、と尋ねたら、「生まれた時から、父たちにたくさんの愛情をもらっていたから」と答えていたのが印象的でした。

ルポ 同性カップルの子どもたち――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う
時代は変わっていくもの
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