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『リスクの神様』クセのある俳優陣でひときわ目を引く、V6・森田剛の乾いた表情

2015/07/22 16:00
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『リスクの神様』(フジテレビ系)公式サイトより

 夏クールのドラマがぼちぼち出揃い始めたが、その中でも一番面白く見ているのはフジテレビ系で水曜夜10時から放送されている『リスクの神様』だ。

 本作は、さまざまなトラブルに巻き込まれた企業のクレーム対策を行う危機管理専門家たちの物語。第1話ではロボット掃除機に搭載された次世代型バッテリーの欠陥による出火事件が描かれ、第2話ではカップスープの中にねじが入っていたという異物混入事件が描かれた。おそら、異物混入で発売中止になり、最近、発売が再開された「ぺヤングソース焼きそば」の騒動が下敷きにあるのだろう。

 今のところ、トラブルの裏にある不祥事を隠ぺいしようとする企業のゴタゴタを描く方向でドラマは進んでいるが、悪質なクレーマーとの戦いを描いても面白くなる気がする。アルバイト店員が厨房の冷蔵庫に入った写真をSNSにアップしたバイトテロなど、この手のニュースは急増しているので、ネタはいくらでもあるだろう。あらためて、面白いところに目を付けたなぁと思う。

 いわゆる天下国家を題材とした政治劇とは違う、一般企業の感覚に寄せた社会派ドラマは、NHKの土曜ドラマ枠が得意としていたが、民放でもメガバンクでの内部闘争を激しいテンションで描いた『半沢直樹』(TBS系)や、コメディに寄せた『リーガルハイ』(フジテレビ系)シリーズのような法廷ドラマも出始めている。本作も『リーガルハイ』の石川淳一がチーフ演出を務めるため、放送前は、もっとコミカルなブラックコメディになるかと思われたが、作品はシリアスで重厚な大人のドラマに仕上がっている。

 しかしその重厚さが敷居の高さとなり、銀行を舞台にした完全懲悪ドラマとして割り切っている『花咲舞は黙ってない』(日本テレビ系)に視聴率の面では苦戦しているが、作品の評判は上々のため、この完成度を保っていれば、じわじわと人気が高まっていくのではないかと期待している。俳優に関しても申し分ない。主演の堤真一はもちろんのこと古田新太、吉田鋼太郎、小日向文世などの実力派中年俳優のしっかりとした演技が見られるのも、本作の見どころだ。

 今まではアイドル女優という立ち位置だった戸田恵梨香も、過去のイメージを払拭するかのように、気合の入った芝居をみせていて、顔立ちからして別人のようである。そんなクセの強い俳優陣の中、最も気になるのが結城実を演じるV6の森田剛だ。

◎「乾いた表情」を持つ俳優
 森田は、いわずと知れたアイドルグループ・V6のメンバーだが、正直、最初は誰だかわからず、すごくいい顔の俳優がいるなぁと思った。後で森田だと知って驚いたのだが、テレビドラマの出演は『平清盛』(NHK)以来2年ぶりだという。森田が演じる結城は危機対策室渉外担当で、事件の裏取りをする探偵のような役割を果たしている。
 
 第2話では、事件に便乗したクレーマーに対して一歩も引かずに対峙する姿や、ねじの混入事件が起きた工場で、過去にリストラされた人々に素性を隠して近づいていく場面があるが、そのときの森田の表情が実にいい。いわゆるアイドルの演技とは全然違うもので、顔もびっくりするくらいゴツゴツしていて華がない。森田は現在36歳だが、同じ年齢でももっと子どもっぽい表情の俳優はいくらでもいる中、ここまで無骨で乾いた表情ができるのかと驚かされる。くせ者中年男優が勢ぞろする同ドラマで、もしかしたら一番恐い顔をしているかもしれない。

 デビュー直後の森田はテレビドラマの主演作が多かった。小生意気な天才棋士を演じた『月下の棋士』(テレビ朝日系)は初期の代表作だ。影のある不良のイメージが強く、初期のTOKIO・長瀬智也と同様、「ポスト木村拓哉」的な俳優として売り出したかったのではないかと当時は感じていた。実際、『ひとつ屋根の下2』や『ランチの女王』(ともにフジテレビ系)では、不良少年役を演じていたが、森田が演じる不良は、ほかの役者の何倍も危険な匂いを漂わせており、皮膚感覚で、やさぐれた人間のことがわかってるなと感じる芝居だった。

 また、2016年に公開予定の映画『ヒメアノ~ル』では、快楽殺人鬼の役を演じることが決まっている。原作は『行け!稲中卓球部』や『ヒミズ』(ともに講談社)などで知られる古谷実の暗黒青春漫画。役者が演じるには難易度の高い役だが、今の森田なら問題ないだろう。00年代に入ると森田のドラマ出演は減り、近年では舞台が活動の中心となっている。そのためテレビでの露出は減っていたが、役者としての評価は近年高まっており、宮本亜門や蜷川幸雄などの名立たる演出家に絶賛されている。

 今回の『リスクの神様』の結城役は森田にとって新たな転機となるだろう。今後はSMAP・稲垣吾郎や風間俊介のような魅力的な脇役を演じられる俳優として、出演オファーが増えていくと思われる。見る者を圧倒する森田の乾いた表情を求めている作り手はきっと多いはずだ。
(成馬零一)

最終更新:2015/07/22 16:26
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