介護をめぐる家族・人間模様【第50話】

長男に拒絶された住職のさびしい晩年――北陸地方、寺を飛び出した息子に憤る檀家

2015/04/12 19:00
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 80歳を超えても、50~60代と変わらない記憶を持つ「スーパーエイジャー」への研究で、彼らの脳は構造が違うことがわかったという。大脳皮質が厚い、特殊なニューロンが多い、などがそれらしいが、それが生まれつきなら、今さらどんなに脳トレをしても無駄ということか。スマホに「ルモシティ」入れたのにな。

<登場人物プロフィール>
多賀 ミハル(58)北陸地方の農家の嫁。姑、夫、息子夫婦との5人家族
持田 順正(56)多賀さんの地元の寺の長男だがサラリーマン。首都圏在住

■檀家の金で大学に行ったのに、寺の跡継ぎを嫌がった長男

 「勝手なもんです」。そう憤るのは、北陸地方に住む多賀さん。地元の寺の婦人部長を務めている。

「なにぶん田舎なので、人の出入りはほとんどありません。私も同じ町内から嫁いできましたし、周りも似たようなものです。閉鎖的と言えば閉鎖的かもしれませんね。その代わり、結びつきも強いですよ。顔を見れば、どこの誰かがわかるのはもちろん、3代前まで遡れるくらい」

 明るく笑う多賀さんは、しっかり者で地元の人たちからの信頼も厚い。地元の寺で婦人部長を務めるのが、人望の証しでもある。

「このあたりでは、お寺の役目は重要です。婦人部は何かあるたびに、お正月やお盆の法会以外にも宗派の年中行事があって、お茶当番やらお斎(とき)つくりやらに駆り出されています。それでも昔に比べればずっと楽になったんですけどね」

 寺を中心に回るコミュニティ。一昔前の日本の姿が、多賀さんの地元ではまだ生きている。居心地よく暮らせる人ばかりではなかっただろう。

「ここで暮らしていくには、それが当たり前です。そうではない社会を知らないですし。でもまさかその寺の長男がそんなつながりを拒否するとは思いませんでした」

 その長男、順正さんは幼い頃から利発だったという。それだけに、この閉鎖的で旧態依然とした地域が我慢できなかったのだろう。大学進学で家を出ると、そのまま寺には戻らなかったのだ。

『葬式と檀家 (歴史文化ライブラリー)』
地域社会からの期待と義務を捨てても行きたい道がある
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