『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』刊行記念トークイベントレポート

「日経記者なのに元AV女優」鈴木涼美が語る“夜のオネエサン”へのレッテルと、キャラとしての私

2015/02/28 16:00
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鈴木涼美氏(左)とアケミン氏(右)

 昨年、デビュー作『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(青土社)を出版、「週刊文春」(文藝春秋)において“元AV女優の日経新聞記者”として報じられたことでも話題になった社会学者の鈴木涼美氏。彼女がAV、キャバクラなど夜の仕事をしてきた中で、自身の考える女の愛と幸福を綴った『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)の刊行記念トークイベントが1月31日、下北沢の本屋B&Bで行われた。

 「電話来ないんですよねー」と充電中の携帯を片手に、交際相手からの連絡を待ち焦がれている鈴木氏の乙女な一面が垣間見られ、和やかな雰囲気で始まった今回のトークショー。トークのお相手はAVライターのアケミン氏だ。内容は、新刊についての話から、渋谷周辺で過ごした思春期の話や恋愛の話題など多岐にわたった。

 まず本作に関して、鈴木氏は「私小説とエッセイの間のような作品」と語る。誰かに教わるような“愛し愛され、幸福になる”ことへの疑問に端を発し、女を売る仕事をしてきた彼女と、その友人たちによる悲喜こもごもの赤裸々恋愛エピソードを集め、本当の愛と幸福とは何かを考察している。

 アケミン氏は、AV女優による仕事への動機語りについて、社会学の観点から解体した前作と比較し「前作は著者の情報がなくて、こいつ誰だよって感じだったんですけど(笑)。本作は明らかに内部事情にも精通してるし、すごい記述も細かくて良い。前作とはかなり性格の違う本ですよね」と率直な感想を述べた。それに対し鈴木氏は「前作はAV女優を新しい見方で捉える総論を書きましたが、今回は夜のお姉さんの仕事の、内実とか知られざるおかしみとか、そもそも良いのか悪いのかという点も曖昧な夜の仕事についての細部を描きたかったんです」と説明。そのため、夜の世界を経験した読者から「私も生きてていいんだ」「励まされた」と、勇気づけられたという反応が多かったそうだ。

 本作の性格は「身体を売ったらサヨウナラ」という部分よりも、サブタイトル「夜のオネエサンの愛と幸福論」に表れている。自身が経験したAV業界やその周辺の人々を描いた単なる業界本のようなルポとは違い、それを通して見えてくる愛や幸せについての彼女の恋愛考察がメインなのだが、トークイベントでも、自身がAV女優になるきっかけとなったAVスカウトマンや、ホストなどとの、過去の恋愛遍歴を明かした。

 鈴木氏は「スカウトマンってやっぱり、“自分は女のためにいるんだ”っていう感じがあって好きなんですよ。露骨に力になってくれるんで、頼っちゃいますよね。ホストはこっちが望んでることは言ってくれるけど、その出どころが謎ですよ。パフォーマンスですからね。だからホストクラブには行くけど、恋愛関係になるのはスカウトマンが多いですね」と、ホストとスカウトマンの違いを熱弁。世間には「AV女優をはじめ、夜の仕事をする女性はホストが好き」という固定概念があるが、鈴木氏のスカウトマンが好きな理由を聞いていると、「AV女優も普通の女の子と同じ」と、しみじみ思った。

『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』
夜のオネエサンは不幸じゃなきゃいけないというメディアの妄想
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