仁科友里の「女のための有名人深読み週報」

恋愛マスター・くじらの“お悩み相談”の巧妙さ――「都合のいいオンナ量産」の仕掛けとは?

2018/08/16 21:00
kujirakujira
くじらオフィシャルブログより

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「思い通りの恋愛より、思いもよらない恋愛を」くじら
『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系、8月14日)

 人が生きていくためにはカネが必要だが、「カネをもらう」には、もらう側が払う側の要求を充たす必要性が出てくる。ネイルサロンで、客が赤のネイルを希望したら、赤を塗るのが、カネをもらう側にとっての正解なのだ。払う側の要求を充たすことにより、リピーターが増えて、もらう側が潤うのである。

 しかし、この原則があてはまらないのが、有料の悩み相談だ。というのも、悩んでいる人が、悩みを解決する直接的な方法を求めて相談に来るとは限らないからである。悩む人は自責傾向が強い思考回路をしているか、反対に、自分は悪くない、だから自分を変えるつもりはないと願う人のだいたい2つに分かれるのではないだろうか。自責傾向が強い人は、アドバイスを忠実に実行するので問題を解決しやすいが、悩みが解決すればリピーターになる可能性は低そうなので、カネを落とさない。となると、有料悩み相談は、自分は悪くない、自分を変えるつもりはない人を、いかに顧客にするかがポイントになってくるだろう。

 以前この連載で、「瀬戸内寂聴の人生相談は具体的ではない」と書いたが、寂聴はこのあたりの機微を熟知しているのだろう。そして、悩み相談界に、男性の若きカリスマが現れた。お笑い芸人のくじらである。ものまねタレントとしてデビューし、芸人として売れているとは言いがたいが、オードリー・若林正恭が『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で、“恋愛マスター”として紹介してから、徐々に知名度を上げている。最近は恋愛に関するカウンセリングやセミナーも開催し、人気を博しているようだ。

 恋愛相談に乗る男性陣の答えというのは、だいたいパターンはだいたい決まっていて、「オトコってのはそういう生き物だから」と、オトコを下げることでオンナの溜飲を下げさせようとするが、くじらは違う。男性に不満を持つ女性に対し、「思い通りの恋愛より、思いもよらない恋愛を楽しめ」「相手を変えようと思った瞬間から、恋愛はつらい」と言ってのける。これはつまり、恋愛はうまくいかないのが当たり前であり、今、恋愛で悩んでいるのは、自分が相手を変えようとしているからと言い換えることができるだろう。

 思いもよらない恋愛ができているのは幸せなことなのに悩んでしまうのは、自分が相手を変えたいという欲を持っているから。しかし、それはあなたが悪いのではなく、“世間の基準”というものが悪い。あなたは、その基準を、無理やり強いられているのではないの? といった具合に、別の“犯人”を仕立てあげる。恋愛相談でありがちな「そんなクソ男はやめておけ」とも言わない。相手のことがクソ男だと思えたら悩みもしない、という恋愛相談の超基本をがっちり押さえている。自分は悪くない、自分を変えたくない派の女性にとって、彼氏を責めず、自分の非をとがめられることもない、くじらのアドバイスは“響く”のだろう。

世の中には、誰とでも幸せになれる人と、誰といても幸せになれない人の二通りしかいない。
くじらに相談するならおみくじを引いた方がいいのでは?
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