性の話をするのに「資格」がいると感じるのはなぜ? 過剰な自己開示も傷つけられることもなく性を語る場に必要なルール

2018/06/30 20:00

 前篇では、レズ風俗から見える女性の生きづらさについてお話しました。今回は5月の東京レインボーウィークに開催した「これからの『セックス』の話をしよう~いまを生きやすくするための語り場~ 現役レズ風俗キャスト×SEX and the LIVE!! #これセク」 を通じ、女性が性を語りやすくするにはどうしたらいいかを考えます。

 私は「SEX and the LIVE!!(以下SatL)」という女性アクティビスト4人が性について身近なトピックから語ることで、語りを巻き起こすプロジェクトを主宰しています。

▼参考
声を潜めて語るか、テンションを上げて下ネタとして語るか。社会の「性」についての語り方を変えたい私が始めたこと

 今回は都内のレズ風俗店で働いたあと、対話型レズ風俗店を起ち上げ店長兼キャストをつとめる橘みつさんとSatLのメンバーとでトークセッションを、さらに参加者を交えてグループトークを行いました。

 最初にSatLメンバーにレズ風俗のイメージを聞いたところ、以下のようなコメントがありました。

「私は同性愛者という自認ではないけれど、女の子とエッチなことをしたことがあり、レズ風俗ブームが来てるのは、女体のよさがわかる人が増えたんだなと」
「私は少し抵抗がある。異性のあいだでは解消できない、フェチとやプレイという生々しいイメージかも」(異性愛者のメンバー)
「女の子とエッチなことができるという男性向けの風俗と同じでイメージで、特別なことをするイメージはない」(性別に関係なく人を好きになるパンセクシュアルジェンダーで、性自認がどちらとも限定されないジェンダークイアのメンバー)

 私自身は前篇でもお話したとおり、自分のセクシャリティへの疑問からいつか行ってみたいと思っています。こうしてみると自身のセクシャリティやこれまでの経験がレズ風俗のイメージに関係しているのかもしれません。

AVと比較され傷つく女性たち
 レズ風俗キャストのみつさんは「90分2万円のセックスが、この人のしたかったことなんだろうか」と疑問を持ったそうです。お客さんは、男性とのセックスでAV女優と比較される、自分でもそうした女性たちと身体を比較してしまう、中でイけない、性経験がないなど、さまざまな悩みを抱えています。

「対話型レズ風俗」ではその悩みをじっくりと聞き、プレイに反映させながら、その体験を「持ち帰って考えてもらう」ことを目的にしているそうです。女性の身体を持って女性の身体に接しているレズ風俗キャストに自分の身体の悩みやコンプレックスを話すというのは、私も共感できます。しかし、「自分の身体は変なんじゃないか」と思ったり「AVと違う」といわれて傷ついたりするのは、個人の問題だけには収まりません。

 女性は同性の身体をじっくりと見る機会が少ないですし、女性も男性もセックスについてAVや娯楽コンテンツ以外から得られる情報が少ないのです。そしてけして安くはないレズ風俗にまで行かないと性の悩みを話せない現状があります。

「誰とヤッた」は話せるのに
 そうして話す場がないことが、深刻な性の悩みにつながっています。SatLメンバーのひとりは学生時代に妊娠中絶の経験があり、当時は性の悩みを友だちには話せなかったそうです。彼女は現在、性教育の講演を行っています。

 東京都足立区での性教育の授業を「不適切」とする都議質問が波紋を呼びました。彼女は性教育の学習指導要領を見直し、正しい知識を伝えるために中高生の実態に即した教育を求める署名運動を行っています。一連の活動のなかで、よく“純潔教育をしろオジサン”に怒られるそうですが、性に触れさせないようにすることで、かえって奔放になったり、深刻な問題を招いてしまうこともあります。

 DVや妊娠中絶など多くのダメ恋愛を経験した別のメンバーも高校時代は性の話を語れずにいました。それどころか、受精の仕組みは知っていてもセックスの意味を理解していなかったのだとか。地方の性規範が強い家庭で育ち、貞操観念が強いにもかかわらず、その後彼女はダメ男を渡り歩く“メンヘラビッチ”になったのです。

 家庭内でも性の話はタブー視されがちです。セックスの話はもちろん、「男性の家族に生理用品を見られてはいけない」など、性に関わることは隠さなければいけないという家庭は多いようです。「(家庭でも学校でも)生理なんです、も言えない」というメンバーの発言に共感が集まりました。生理の話をすると「はしたない」という空気があります。

「産婦人科に行ったりピルを飲んだりすることで、セックスをしたと思われて変な目で見られる」ということがよくあります。もちろん「産婦人科に行く=妊娠やセックスをしている」ではないと知られるべきですが、セックスをしていることで変な目で見られること自体が、本来はおかしな話なのです。

 私は性暴力に関わる活動をするなかで、性暴力のことをなかなか人に言えないことに問題を感じています。このトピックは身構えられがちですが、傷つきや悩みや社会問題としての性暴力についてはまだ話せます。しかし「セックスをどうしたら楽しめるか」などポジティブな話や、具体的な話はできない空気があります。

経験と知識がないと、話せない?
 登壇者はそれぞれ、安心して性の話ができず、性的に消費されてしまうことに問題意識があります。女性が性の話をしていると「じゃあ僕とセックスしましょう」「セックス教えてください」と知らない人からもいわれます。「ちゃかされない、搾取されない場が大事だ」とみつさんは言います。

 参加者から事前募集したトークテーマのなかに、性の話を語りにくい理由に「自分には性を語る資格がないと感じる」というものがありました。「経験がなければ」「知識がなければ」性について話してはいけないと感じるそうです。

 なぜそう感じる人がいるのでしょうか。ひとつには、性がタブー視されている現在、AV女優などのセックスワーカーや性教育関係者といった“性に関する仕事”に就いている人、あるいは高い問題意識がある人しか性の話を語ってない現実があります。

 また性に関わることはプライベートでデリケートな話も多く、「間違った知識をもとに語ったら聞いている相手を傷つけてしまう」という心配もあるでしょう。

 みつさんは風俗という仕事について話したとき、「そういう仕事しているんだ、私はやらないけど」と、ふわっとした嫌悪感を表されるのがツラいそうです。セックスワーカーへの偏見は、性の話題への偏見と地続きなのでしょう。

性の話だけが特別なわけじゃない
 みつさんは、多くの人は「性について話す=自分の経験範囲内のセックスの話」になってしまっていると話します。しかし自己開示をしなくてもセックスの話はできるはずです。

 また知識は必要だけれど、「なければ話してはいけない」だと、自分にはその資格がない、語るハードルが高いと感じてしまいます。「性の語り方だけの、特別なルールがあるわけではない」とメンバーは言います。人のプライバシーを守ることが大事だったり、知識がないことで傷つけてしまったりということは、日常生活でも起きます。傷つけたら謝り、間違えたら訂正し、わからなかったら聞いたり学んだり対話をしたりして考える、そして決めつけない、押し付けない……そうしたことが大切です。性の話は、生活の延長線上にあるのです。

 では、もっと気軽にセックスについて語れるようになるにはどうしたらいいのでしょうか。イベントでは次のような意見が出ました。

・セックスカルチャー、誰を好きになるか、身体のこと、ジェンダーのことなど性の話は幅広く、自分についてでも一般論でも、いろいろな語り方ができるはず
・語り方を見つけていくのが大事なのでは
・人間関係でも「この人にだったら話せる」「この話し方なら語れる」ものがあるはずで、信頼関係が大切
・知らない人だから話せるし、同じコミュニティや友だちだからこそ傷つくこともある

 性の傷つきを語る自助グループを運営しているメンバーは、「いいっぱなし・聞きっぱなし」というルールを設けていると言います。誰かから批判されるわけでなく受け止められることが、受容につながり自分と向き合うことになっているそうです。

 性についての話し方・受け取り方の練習が必要だということを共有し、イベント中実際に語りあうに際して、この場でのルールを共有しました。

 ・(相手の話を)とりあえず受け取る
 ・同意の確認
 ・ここでの話はここだけで
 ・過度に自分を貶めない

ルールがあると、安心して語れる
 以上のルールに基づき、「レズ風俗に行ってみたいか?」「どうやったら語りやすくなるか」などのテーマで、参加者と登壇者がグループに分かれてお話しました。

 参加者にはふだん性の話をなかなか話せない人と、話せるけれど引かれてしまうから思うように話せない人の両方がいました。「ルールがあることで、温泉のような安心できる場になった」「自分でもそういう場を作りたい」と感想を話してくれました。

 会を締めくくるにあたり、SatLメンバーからは次のような話がありました。

「話せっていわれても、話せなかったりする。人にはいろいろなタイミングがある。自分を責めすぎないでほしい。私は語れる場があったから自虐でやっちゃっているけれど、そうやって自分をキャラ化することで傷つきや苦しみから開放されているからできる。恐れず語ってほしいけれど、語れないことにも罪悪感を感じないでほしい」

最後に、レズ風俗ブームとは?
「私は物心ついたときから、語りづらさがなかった。語りづらい人がいると改めて気づきました。語りたいけど語れない人、そもそも語りたくない人がいて、無理に押しつけるわけにはいかない。その場作りが大事だと思った」

 語ることに抵抗のない人だからこそ、語れない人に押し付けずどちらも心地いい場所にする意識は大切だと感じます。

 レズ風俗のブームは、女性が性を語りたい、もっと罪悪感なくセックスに触れたいからこそ起きているのではないでしょうか。これからも安心して性を語れる場を作っていきたいですし、私たちだけではなく、ほかにも話したい人が少しずつ増え、安心して話せる仲間をつくって安心して性を語り、罪悪感を覚えることなく性に触れられて楽しめる文化ができてほしいと思っています。

最終更新:2018/06/30 20:00
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