『「女子」という呪い』著者・雨宮処凛さん×『介護する息子たち』著者・平山亮さん対談(後編)

「男性も楽になる」ジェンダー論はおかしい――女性を“わかってるふう”の男性の問題点

2018/06/26 15:00

ジェンダーについて女性が語ると「ワガママ」と言われる

雨宮 男性にとって耳が痛い話って、女性にとってはどういう話になるんですか? 私が男性だったら、おそらく自分が責められているような気分になって、#MeTooにすごくドキドキすると思うんです。怒られる、責められる、自分のキャリアをすべて失うということにおびえているから、逆ギレするような感じになるのではないかと。

平山 私のイメージだと、女性のほうがつらい話が多くないですか? 男性がキャリアを失うのではないかとおっしゃっていますが、この本だって雨宮さんは「書くのが怖かった」と書かれていますよね。女性がジェンダー問題を訴えるのは、別にのびのびとやっているわけではないことを男性はわかっていません。叩かれるかもしれないし、身近な男性から嫌われるかもしれない。女性がジェンダーの話をすると「ワガママを言っている」と言われがちですが、本当は逆で、いろんな恐怖に耐えて言っているので、雨宮さんはすごいと思います。男性の私がジェンダーに関して本を出すのは簡単なんですよ(笑)。

雨宮 そんなことはないです! まず、男性のジェンダー論自体をなかなか聞き出せないですよね。

平山 私が『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』(勁草書房)を書いたとき、男性からは反応が薄かったんです。多分、「痛っ!」って思っているんだけど、言い返さない。黙らせたからOKとは思っていないのですが、少なくとも「男のほうがつらいんだ」と反論されにくいのだとしたら、どんどん男性のほうがジェンダーに関して言わないといけないところがあります。

 でも、これは私も気をつけようと思っているのですが、男性である自分の声のほうが通りやすいから、“救世主”のような気分になってしまう、はた迷惑な男フェミニストも一部います。

雨宮 はた迷惑な男フェミニストでヒロイズムに燃え上がっちゃっている人って、一番厄介かもしれないですね。

平山 ヒロイズムに燃える男フェミニストは、結局“男性がいないとダメな世の中”にせずにはいられない、フェミニストぶった家父長制みたいな感じですよね。理想は「いてもいなくてもどっちでもいい男」だと思います。昔は生存戦略として結婚が必要でしたが、今はうっとうしい男が増えてきて、女性がのびのび生きようとするのを邪魔する。結局、生存戦略的にはいなきゃいけないか、いてくれないほうがむしろ生きやすいか、その両極しかありません。だから、男が「いてもいなくてもい」になって初めて、女性と男性は自由な関係をつくれる。

雨宮 自分の親世代までは、配偶者がいないとなかなか生活ができませんでしたが、「いてもいなくてもどっちでもいい男」を実現するためには、まずは女性が自立できる社会が整っているということですよね。そしたらいつでも別れられますし、シングルマザー=貧困でなくなります。一番いい男は、女性の人生を邪魔しない人ですよね。
(姫野桂)

雨宮処凛(あまみや・かりん)
1975年生まれ。作家、活動家。バンギャル、右翼活動を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』(筑摩書房)でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ!難民化する若者たち』(同)はJCJ賞受賞。反貧困ネットワーク世話人。著書に『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)など多数。

平山亮(ひらやま・りょう)
1979年生まれ。東京大学文学部、同大学大学院人文社会系研究科修士課程を経て、オレゴン州立大学大学院博士課程修了。専門は社会学、ジェンダー論。東京都健康長寿医療センター研究所、福祉と生活ケア研究チーム研究員。現在は中高齢期の親子関係と高齢者介護をテーマに、男性とケア/男性のケアの問題を研究中。主な著書に『迫りくる「息子介護」の時代 28人の現場から』(共著・光文社新書)、『きょうだいリスク』(共著・朝日新書)。

最終更新:2018/06/26 15:00
「女子」という呪い
耳の痛い人多そう
アクセスランキング