インタビュー

『幸色のワンルーム』放送中止に批判の嵐……弁護士・太田啓子氏が「誘拐肯定」の意味を語る

2018/06/23 20:45

表現の自由は「公共の空間で何をやってもいい権利ではない」

 『幸色のワンルーム』放送取りやめに異議を唱える人は、「同作に反対する人がどの点を問題視しているのか、把握できていないのではないかな、と思ってしまいます」と語る太田氏。

「表現の自由って批判をされない権利ではないし、公共の空間で何をやってもいい権利でもありません。また、重要なこととして、表現物発信における社会的責任意識を問うことは、公権力による表現の自由の弾圧とは違います。東日本大震災後、サザンオールスターズの桑田佳祐さんは、ライブ『TSUNAMI』を自粛していたそうですが、それは『自分の意図と関わりなく、大津波で家族を失うなど、つらい思いをしたファンに、自分の言葉がどう感じられるかを思いやった上での判断』だったのだと思います。これにも是非の論争はあるようですが、社会の中で生きる表現者としての1つの見識だと感じます。永遠に公の場で歌わないと決めていらっしゃるわけでもないでしょうし、社会の中で自分の言葉がどう受け止められるかが変われば、また違う判断をされてもおかしくないですよね」

 太田氏は、『幸色のワンルーム』放映に関しても「そういう、今の社会の中で自分が発信する表現物がどういう意味を持つか、どういう影響を与えるかという“社会の中で表現する者としての責任意識の有無を問うという範疇の問題”」であると考えているという。

「私も含め、放映を批判した人たちは、例えば法律をつくって、女児誘拐を肯定的に描くことを禁止しましょうなどということは言っていないのに、『表現の自由への弾圧』などというのは、議論の次元を誤解した的はずれな反応です。表現物や表現者のスタンスへの批判や論評も、表現の自由の行使ですしね。そうではなく、公共空間のあり方や、社会規範の作り方の話をしているのですが」

 『幸色のワンルーム』は、テレビ朝日での放送は取りやめとなったものの、制作した朝日放送では予定通り放送が決定している。こうした判断が下った背景について、「被害者少女が関東に住んでいるから、関西だけの放送になったのでは」と見る向きもあるが、「被害者の少女が見なければいいという問題ではない」と太田氏は指摘する。ドラマ開始後、再びこの問題は議論を呼びそうだが、果たして、どんな意見が飛び交うことになるのだろうか。

太田啓子(おおた・けいこ)
弁護士、湘南合同法律事務所。国際基督教大学を卒業後、2002年に弁護士登録(神奈川県弁護士会)。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバー。13年4月より憲法カフェを開始するほか、14年11月より「怒れる女子会」呼びかけ人。

最終更新:2018/06/23 20:45
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