稲村亜美始球式での中学男子暴徒化は、「性的好奇心の問題」ではない

2018/03/14 20:00

 3月10日に行われた日本リトルシニア中学硬式野球協会関東連盟の開会式で、始球式を務めたグラビアアイドルの稲村亜美(22)が、大会参加した男子中学生たちに取り囲まれてしまった事件。一部始終を撮影した動画がネットに投稿され今なお拡散中だが、球児たちがマウンドに立つ稲村亜美に一斉に群がる場面のインパクトは非常に大きく、SNSでは「怖い」「集団痴漢のようだ」との感想が多い。稲村はにじり寄ってくる球児たちに「大丈夫? よし落ち着こう、押さないでー」とマイク越しに呼びかけているが、ワッと中心に押し寄せた球児の群れに完全に埋もれて見えなくなってしまう。

 3月14日放送の『とくダネ!』(フジテレビ系)では、コメンテーターであるコラムニストの深澤真紀氏がこの事件について「深刻な問題」と捉え、「今回、監督たちがすることは、これは暴力であって、しかも性的暴力であるということを、スポーツマンなのですから、本当に教えないといけない」とコメントしている。

 稲村亜美はすぐに「体を触られていない、大丈夫」とコメントを出しており、騒動拡大後にもあらためて所属事務所の公式webサイトで状況を説明した。彼女の説明では、「選手たちが私のもとに駆け寄り握手を求めて来たところに、参加選手の大半が流れ込んだ事は事実で、私もバランスを崩してしまいましたが、私自身に怪我はなく押しつぶされたような事もありません。ましてネットで一人歩きして書かれているような事(痴漢行為)は、ありませんでした」とのことだ。

 稲村亜美が暴力、まして性暴力ではないと明言している以上、この始球式で実際に何があったかについてこれ以上の議論はできない。「握手を求めることが暴力か否か」を議論しても意味がないものだ。しかしこの事件への“反応”については議論の余地が大いにある。まずこの事件を「中学生男子の性欲のせいで起きたアクシデント」と解釈したうえで、性欲や性的好奇心の塊である中学生男子たちの前に、可愛らしいグラビアアイドルの女性を護衛もなく立たせた運営側の不手際をなじる意見もネット上には多く見られたからだ。その理屈は、“無防備な女性がいたら男に乱暴されても仕方ない”とイコールである。

 無防備な女性がいても、弱そうで抵抗できなそうな子供がいても、乱暴してはいけない。なにより相手が誰であっても乱暴してはいけないし、許可なく勝手に体を触ってはいけない。この当たり前のことが共有されていないことを痛感する。他人の体を侵害することについての社会的な意識が低すぎるのかもしれない。性欲や性的好奇心が悪いのではなく、それを理由に許可なく他人を侵害する行為が「NO」だという共通認識の欠如こそが問題だ。

 男女が接触しなければ男女間での性暴力は起こり得ないが、同性間での性暴力は起こり得るだろう。野球のグラウンドから女性を排除すれば、その空間で男が女に欲情して事件を起こすことはないだろうが、しかし野球に参加したい女性はその権利を剥奪されることになる。根本的に、「男(性欲が強く力も強い)が女(力が弱い)を襲うのは仕方がないことだ」という価値観を「仕方がなくない」と転換させない限りは、性暴力および男女不平等に関する様々な問題は解決の糸口すら見出せないのではないだろうか。

最終更新:2018/03/14 20:00
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