ドラマレビュー

『わろてんか』『不能犯』松坂桃李、生真面目青年からダークヒーロー魅せる幅

2018/02/05 21:00

 真面目な青年イメージを脱却するには

 その後、松坂は朝ドラ『梅ちゃん先生』(NHK)に出演して、ヒロインの幼馴染で後に夫となる男・ノブや、『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(フジテレビ系)菜々緒が演じる猟奇殺人鬼を追う生真面目な刑事を演じたなどに出演しキャリアを積み重ねていく。

 もちろん『シンケンジャー』以降もヒーロー役を演じていて、70年代にヒットしたアニメを実写映画としてリブートした『ガッチャマン』や、未来が見える目を持った男を演じた連続ドラマ『視覚探偵 日暮旅人』(日本テレビ系)等に出演。その一方で、映画『MOZU』では残虐な殺し屋を演じており、現在公開中の映画『不能犯』でも、不気味な殺人犯を演じている。

 『不能犯』で松坂が演じる宇相吹正は、「思い込み」や「マインドコントロール」を駆使して次々と人を殺していく。神出鬼没で、目が赤く光ることからモンスターのような存在だが、一方で「殺してほしい」という依頼人の願いをかなえるダークヒーローとしての側面もあるという得体のしれない存在だ。宇相吹は、自分の快楽や私利私欲のためではなく、人間の本質に迫りたいという哲学的な動機で殺人を重ねていく。今まで松坂が演じていたヒーローとしての特性を、そのまま悪役にひっくり返したような存在で、正義の味方を演じた時と同様に、真面目で使命感が強く融通がきかない姿には、愛嬌のようなものすら感じる。

 そんな、生真面目さの中にある愛嬌を見事に引き出していたのが、宮藤官九郎が脚本を担当していた『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)だろう。本作で松坂は小学校の教師・山路一豊を演じた。生徒たちから人気がある優秀な教師だが山路は童貞で、教育実習に来た女子大生や生徒の母親にいつも翻弄される。その一方で仲間たちの相談相手となって冷静に物事に対応する頼りがいのある大人としての魅力もあり、ただ生真面目なだけではない、人間味のある男となっていた。本作で共演した岡田将生や柳楽優弥とは、今でも3人で旅行に行く仲らしく、松坂にとっても一つの転機となった作品と言えるだろう。

 松坂の持つ生真面目なイメージは、現代の青年を演じるには立派すぎて、現実感が薄いのだろう。そのためどうしてもヒーローや殺人鬼といった、人間離れした存在を演じることが多くなってしまう。しかし、『ゆとりですがなにか』のようなアプローチならば現代に生きる普通の青年の役も演じられるだろう。正義の味方のような極端なキャラクターも悪くはないが、普通の人の中にある情けなさを演じても面白い俳優だと思う。
(成馬零一)

最終更新:2018/02/05 21:00
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