[官能小説レビュー]

奴隷調教するS男のセックスとは? そこに垣間見える「愛」が気付かせてくれること

2017/12/04 19:00
sdemomdemo
『SでもMでもなくこれは恋とか愛』(角川書店)

 アダルトビデオなどを除けば、他人がどういったセックスをしているのかを実際に見たことのある人は少ないだろう。ネットや雑誌、友達同士の会話などから、自分たちの行為は何となく「普通である」「ちょっと普通ではない」と自己判断ができるけれど、果たして自分以外の人が、どういったセックスをしているのかは永遠の謎である。しかし、女性は自分の恋人や恋愛を女友達に自慢したいと感じることがしばしばあり、「私はこんなに愛されている」と、手っ取り早く周りに伝えることができる手段はセックス体験談なのだ。

 今回ご紹介する『SでもMでもなくこれは恋とか愛』(角川書店)は、サタミシュウの人気SMシリーズ。主人公の美樹は前作『私の奴隷になりなさい』(同)などにも登場した男性である。高校時代に教師であった志保によってSMの世界を知ることになった彼も、家庭を持つ一児の父となり、現在は塾講師をしている。美樹には忘れられない女性が2人存在していた。1人は美樹の最初の女性である教師の志保、そしてもう1人は、高校教師時代に夢中になった生徒の澄美。2人に共通するのは、女としての愛嬌を持つ人物ということだ。

 家庭がありながらも代わる代わる奴隷を持ち、調教をしていた美樹にとって、運命の出会いがあった。勤務先の近くの本屋でアルバイトをしている節子である。ある日、職場へ向かう電車内で節子と知り合い、食事に誘うことに成功した美樹は、行きつけの店で食事をしながら、2人でセックスの話をする。

 お互いに家庭がありながらも、長い間夫婦間のセックスがないこと。美樹は「奴隷」を持ち、いわゆる「普通ではない」セックスを楽しむ相手がいるということ。美樹の告白に対して節子は「興味がある」と話した。それから数回のデートを経て、節子は美樹に抱かれることになる。念願の節子を抱くことになった美樹は2度のセックスをし、食事を済ませてホテルに戻り、また節子を抱く。

 2人は主従関係であったが、節子にとって美樹は大切な存在となり、美樹にとっては予測していた通り「3人目の大事な女性」となった。2人は時間を見つけて逢瀬を繰り返す。しかしある日、節子から思いがけない告白のメールを受け取ることになる——。

 「類は友を呼ぶ」という通り、Sである美樹は自然と節子の持つMの素質を見つけ、節子は美樹の行為を受け入れる。美樹が節子に施していたセックスは決してハードなものではなく、ごく普通のカップルが行う行為の延長上のようなものであった。美樹のシンプルなセックス描写を読み進めていると、彼の節子に対する「愛」が垣間見えるのだ。

 セックスは普通かそうではないか、女友達に自慢ができるかそうではないかでは計り知れない。どういったセックスをし、相手がどう満足し、自分がどれだけ満足させてもらえるかが重要なのだと、本書は気付かせてくれる。
(いしいのりえ)

最終更新:2017/12/04 19:00
SでもMでもなくこれは恋とか愛 (角川文庫)
いろんな愛の形があるようで
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