子の病気=母親に原因あり! 「母原病」の源流をたどるとトンデモ医師にたどり着く

 女優の真木よう子が、情報番組『バイキング』(フジテレビ系)で「育児放棄して男と火遊びしてる」とされて 「ちゃんと母親をやれ」と盛大に叩かれたそうで、なんのこっちゃと当サイトの関連記事を読んでみると、8歳の子どもを元夫に託して深夜に元彼と食事をしたという話です。「自分の妻が同じことをやったら許せない」「女として寂しいのでは?」なんてご意見が出ていたそうで、盛大にズッコケました。

 記事でも指摘のとおり、子どもをひとりで〈放置〉したわけでもなし、父親の元で過ごしている間、現在独身の真木が友人男性(元彼)と食事をして何が悪いのでしょう。この出来事が象徴しているのは、この国は「育児は母親が主体で自分の時間はすべて子どもに注ぎ、誠心誠意全力で行うべき」という考えが根強いということでしょう。

 子どもに障害があっても母乳が出なくても、不登校になっても病気になっても、何でもかんでも「母親のせい!」という空気で責められるのは、多くのお母さんたちも体験しているのではないでしょうか。直接そうは言われなくても、子どもに何かあれば真っ先に「私のせいで……」と自分を責めてしまうお母さんも多いと聞きます。しかし〈育児の責任〉ということであれば本来は父親も担うべきなのですが、なぜ母親ばかりに? 世界では共働き&父親が積極的に育児に参加する国も多く、そもそも日本でも大正時代までは、ここまで母親が育児することが絶対視されていなかったと言います。今回は、この〈母親責任論〉の源流をご紹介していきましょう。

◎約40年前に登場した「母原病」

 子どもは母親がつきっきりで育てるべきというお説が世に広がり出したのは、『保育園義務教育化』(小学館)によると、3歳児検診が始まった1961年あたりだと言います。「3歳児神話」の大キャンペーンが始まり、子どもの健全な成長のために、幼少期は専業主婦がつきっきりで育児をすべきであると主張されました。

 おそらく、そこへ乗っかるように1979年に登場したのが、小児科医・久徳重盛氏の『母原病(ぼげんびょう)』(サンマーク出版)。「現代の子どもの病気は60%が母原病=母親に原因がある」。そう謳った同書は続編も出版され、シリーズで100万部を超えモンスター級のロングセラーに。しかし現在では、〈母原病は「自分がこう思った」という個人の雑感でしかなく、科学的根拠はない〉と認識されています。

 ところが! 現在の子育て界隈を見ていると、「子どもの病気は母親のせい」という考え方はまだまだバッチリご健在。諸説入り混じっているのでしょうが、その一部は確実に久徳医師が生み出した〈母原病〉が、元ネタであるはずです。

 現在私の手元にあるのは1991年に発行された文庫版。「新しいデータなどを一部だけ差し替えると、かえってアンバランスをもたらす結果になるため、あえて当時のままにとどめました」とのことなので、源流をご紹介するにはありがたい限りです。

 さっそく、そのお説を紹介していきましょう。

 著者である久徳医師が〈母原病〉という造語を生み出した背景は、このような経緯があったと語られています。

・昭和30年頃、発展途上国型の病気(伝染病)が少なくなり、久徳医師含む小児科医たちは、この調子で進めば将来日本の子どもたちは極めて健康になるだろうと楽観していた。

・しかしちょうどその頃から、今まではなかった子どもの異常や病気が続出! それは、ミルク嫌い、食欲不振、低体温児(幼児で体温が36度台しかない)、言葉を話さない、立ちくらみしやすい、突然死(ポックリ死)、登校拒否、骨折しやすいなどといった症状だった。

・久徳医師の専門であるぜんそくの分野でも、治療しても悪化していくケースが増えた。

 これらを長年分析し、次のような結論に至ったと語っています。

 間接的な原因は、「都市化が進み、子どもの育つ環境が“自然さ”をなくしてしまった」こと。直接的な原因は、「親の育児感覚が狂い、間違った親子関係を続けてきたことによって、子どもの心身のたくましさが失われ、病気になった」こと。だから、よくわからない子どもの不調は、育児を担うべき母親のせい! というのです。

◎母親の育児本能が壊れている?

 さらにこんなお説が続きます

・子どもが大人しいと「ありがたい」と感じるのは、親の愛情が壊れている証拠。昔はこのような親は少なかった。

・大人しい子どもをありがたいと放置して何の刺激もなく静かに育てていると、生まれて1~2週間頃からすでに自律神経が狂いやすくなり、くしゃみや鼻水の出やすい体質の子になる。「生き生きとした感覚が欠如するため、ぐず、のろまな子ども」になる。「最近多いぐずな子どもは、すでに生後5カ月頃からその傾向が作られているのです」。

・保育所に入れて急に風邪をひくようになるのも、保育者の人手不足による〈愛情飢餓〉が原因。「愛情飢餓による呼吸器の自律神経失調症」(原文ママ)である。

・夜尿症も、心身のたくましさ不足から! 年齢に応じた心身のたくましさが不足し、年齢よりも幼稚である、甘えやすいなどの傾向がある子どもが夜尿症なる。

・子どもの性格からもぜんそくになりやすい子を指摘できる。それは、無気力、甘えっ子、わがまま、不平不満が多い子。

・月経が狂うのも母原病、つまり親の育て方が原因。親によって体のバランスが不安定に作られてしまったから。

・子どもがよく熱を出す場合、週末や休日、あるいは旅行などの行事の前に多くないか、反省してみることが大切。そのような傾向があれば、主治医が休みの日に病気になったらどうしようという親の不安を子どもが感じ取っている証拠。母原病の萌芽が出始めていると診断しても間違いない。

◎医師の「ぜんそく」治療例

 こんなお説を展開しながら、「母親の育児がいかにまずいか、母親の育児本能がいかに壊れてきているかを思わずにおられません!」と鼻息荒くたたみかける久徳医師。子どもはみ~んな活発にイキイキとし、母親はどっしり構えながらも心血注いで愛情深く、年長者のアドバイスもよく聞いて、昔ながらの生活を大切にしながら、母親の直感を働かせて子育てすればよし! ということらしいです。

 昭和のおじいちゃんが語る精神論爆発という感じで、ノスタルジーすら感じさせます。ところで頻繁にでてくる「イキイキと」ってどう評価するのかが、ひたすら謎。久徳医師好みの、絵にかいたような昭和風のわんぱく小僧以外は、子どもらしくない! たくましさに欠ける! と診断されてしまいそう。

では、母原病を治すには何をすればいいのか? 久徳医師が現場で行ってきたというぜんそく治療の実例も見ていきましょう。

●2歳でぜんそくの発作が始まったというK君(小学3年生)

 親はお風呂屋で忙しいという背景があることから、「自分の子の相手をして、イキイキさせ、たくましい子にすることを忘れていたのです」と分析する久徳医師。そんなT君が久徳医師の元に連れられてきた時は、小学校3年生。病歴や生育環境から推察し、「医者の誤った指導と母親の無知との合作」で難治性になるのだ! という結論を導き出していますが、それ思いっきり後付けっぽ~い。治療では、親から離すことを目的に入院させてもなかなか改善の兆しが見えず、それならばと祖母の雑貨屋での手伝いを提案。「大人の自覚を深めてやれば、発作は消えるはず!」と考えたのだとか。

 その結果3カ月で発作が消え、「もう、無気力消極性にさようならです」と久徳医師大満足。母親の育児で〈体質〉が決定づけられると語っているのに、イキイキとたくましさを身につけるとあっさり病気が治るとは、摩訶不思議ですね? 症状がピークとなる年齢を過ぎ、年齢とともに自然と治まってくるケースも多いと言われる小児ぜんそくの〈自然治癒〉……という言葉も頭をかすめるエピソードです。

●自己中で子どもっぽい母親を持つT子さん(5歳)

 お次は2歳から発作が始まり、特に土日月末になると集中的に発作が起こっていたことから、母原病の疑いをかけられたT子さん(5歳)です。アレルギーもあるけど、それ以上に心理的な問題が影響していると指摘し、彼女のことを「不幸を約束されて生まれてきた」と表現。こんな未熟な母親のもとに生まれて、あなたは不幸決定! と短絡的に決めつけるのです。

 治療では、「知能は低いわけではないが、たくましさの脳に故障がある」という(しかしすごい表現!)母親自身を成長させるため〈行きつけの店で借金して買い物をしろ〉と指示。当然戸惑う母親に久徳医師は、「それができないのはお母さんの心がたくましくないからだとはっきり狙いをいいました(原文ママ)」。〈お母さんの心の訓練〉とのことですが、これってもうぜんそく治療の範囲を超えてやしませんかね~。これがまかり通る時代の、大らかさよ(悪い意味で)。人間として成熟していない母親を〈病原体〉呼ばわりしていた久徳医師こそ、この国の子育てしにくい空気を作った、病原体のように思えます。

 ちなみにT子さんは、その後ぜんそくの症状は治まったものの、こじれた母子関係は改善されず、15歳になると登校拒否、家庭内暴力とトラブルが続いたとか。久徳医師にSOSを求めてきた母親も相変わらずのキャラなようですので、ぜんそくは治ったものの〈母親をたくましくさせる〉治療の効果はなかったって話!?

●食欲不振の子ども

 相談にきたガミガミ系のお母さんに、「男の子があんまり怖いお母さんに育てられると、青年になって同性愛者になりやすいことを知っていますか」とアドバイスしたというエピソードもありました。これもしみじみと同性愛者に理解のなかった時代を感じさせます。

●保育センターで自閉症と診断された子

 「お母さんが異常に気付いていれば、K君は普通の男の子に育っていたはずです」とぶった切り、インドのオオカミ少女(後年作り話だったと判明)の例を引き合いに「人間がことばを身につけていくいちばん大切な時期に、根本的に誤って育てられてしまっているためです」と解説。普通に育児しているお母さんたちと、世界のびっくりニュースを同列にされてもなあ~。

◎父親主義と母親主義の二項対立

 さらにバカバカしさも最高潮となるのが、次のお説です。久徳医師は、母原病が蔓延し始めた原因をこう考えているとのこと。

・経済的に貧しい社会は父親主義。全体的に勤勉で、節約することが良いという価値観。すると無意識のうちに団結力が強くなる。大家族制度が維持され、子育ても上手くいく。

・経済が成長して豊かになると母親主義になる。勤勉よりも楽しいことが良いことで、節約よりも浪費が良いと考えるようになる。団結が少なくなり、反抗反発が多くなる。そして地域の絆が弱くなり、大家族制度が崩壊する→子育て失敗!

 昔の価値観は〈不便で当然という悟り〉があったが、便利なものが多くなった現代だと、子どもは手のかかる不便なものという考え方になりがち。そしてさらなる我が国の大きな欠点は、〈古くからの伝承〉が極めてあっけなく崩れてしまったことであると指摘します。

 典型的な〈昔は良かった病〉、デター。さらに父親中心の社会を〈ナショナリズム〉、母親中心の社会を〈アナーキズム〉と表現する極端な社会論をチラつかせながら「昔と比べて、今は、母原病を作りやすい問題をはらんだ親が多くなっていると言えます」と言われても、何が何だか。

 これらのお説を見ていると、母原病はエビデンス(科学的根拠)に基づく医療がまだ登場していなかった時代、よくわからない症状に対してなんとか理由をつけようとひねり出した、久徳医師の苦肉の策だったのかもしれないなという気がしてきます。

◎治療できない言い訳?

 さらに、「病気が悪化する原因は母親」「母親が間違った育児で子どもをそういう体質にした」と診断することで、治療をしても症状が改善しないことを「自分の腕が悪いせいじゃないもんね!」と思いたい気持ちがあったのでは~? なんて妄想までが膨らみます。

 現代の一部の医師たちがスマホ育児ダメ絶対というそれと地続きの、「母親が楽することはけしからん」「自分がよくわからない新しいものは気に食わない」というニオイも漂いますよね。久徳医師は2002年に亡くなっていますが、もし今ご存命でしたら、日本の伝統的子育てを推す〈親学〉ともフィーリングがバッチリとマッチしていたのではないでしょうか。

 もし子どもの病気などで「自分のせい」と胸を痛めているお母さんが周りにいる方がいたら、ぜひこちらの元ネタをお知らせください。いかに源流がアホらしいお説であるのか、怒りを通り越して大笑いすること必至です。こんなお説を真に受ける必要がまったくないことを、おわかりいただけるでしょう。

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